今の留三郎の事が知りたい
ぐい、と強い力で手を引かれ、身体は重力に従い傾いてゆく。それでも地に伏せるなんて事に至らなかったのは、他でもない私の手を引いた張本人が、その胸に受け止めたからだ。
手首を掴む掌は大きく筋張っていて、細かい傷痕が何本も走っている。衝突した分厚い胸板も相当に鍛え上げられており、五年前とは何もかもが比べ物にならない。あの頃は私よりも背が低かったのに、今や彼も此方が見上げるまでに成長していた。
「……好きだ」
囁いた声は低く、とっくに声変わりを済ませている。五年前は女の私と大差無く甲高かったそれは、もう既に大人の男のそれだ。やはり当時とは、何もかもが比べ物にならない。
私は女になったし、彼は男になって、性別も何も気にせず戯れるばかりの子供では居られなくなったのだ。確かに、それは寂しい事だとは思う。しかし、決して寂しいだけではなかった。
彼の方を見やれば、鋭く射抜く様な眼差しが真っ直ぐに此方を向いていた。きりりと吊り上がった眉は一見不機嫌そうな印象も受けるが、彼にそんな気が無い事を、私は昔から知っている。知っている筈なのに、何故だか知らない人間の様にも思えてしまう。私の知らない彼を知りたくないとは思わない。恐怖が無いと言えば嘘になるが、むしろ逆に――知りたいと思う。
静かに瞳を閉じると、彼が少し驚いた気配がして、それからそっと唇が重ねられた。私の知らない彼が居る様に、彼の知らない私も居る。無邪気で純粋だったあの頃とは違う、新しい自分が居る。変わらない事が有れば変わる事も有って、失くす物が有れば新たに得る物も有る。
ほんの少しの喪失感に震える胸の内に芽生えた期待感は、遥かに前者を上回るものだった。嗚呼、この感情を何と呼べば良いのだろう。大人になり切っていない今の自分には、まだ理解出来そうにはなかった。
2016/05/02 23:32
ALICE+