グリーンから誘われる
二つの翡翠が真っ直ぐに此方を向いて、金縛りに遭った時の様に身動きが出来なくなる。乱反射する光の渦が眩しく、内側できらきらと耀いていた。魅せられている自覚は有れど、だからこそだろうか、抗う意思は湧いて来ない。
瞳の色と同じ彼の名前を控え目に呼んでみると、手首を掴む力が少し弱まった。併せて眼差しも鋭さを潜め、今度は逆に怯えを宿す。
「とうとう、あいつに追い抜かれちまった」
あいつ――とは、この今にも泣きそうな顔をした彼と並んだ、もう一人の幼馴染みの事に違い無かった。彼が自分と比べる対象にしている存在を、私は他に知らない。随分と昔から、彼は何時だって何かにつけては自分と"あいつ"を比べて、一喜一憂していた。
「本当は、もうとっくの昔にあいつは俺を超えてて、それを認めたくなかっただけなのかもしれねーけど」
自嘲気味に笑って、逆立った亜麻色の髪をぐしゃりと握り潰す。泣きそうな顔は相変わらずで、いっそ涙が零れていないのが不思議なくらいだ。辛いなら潔く泣いてしまえば良いのに、と思う。
プライドの高い彼は誰かに弱さを露呈する事を、自分に赦さない。その意地は私に僅かな寂しさと、鈍い胸の痛みをもたらす。彼の支えになりたいという甘く浅はかな願望を抱く事自体が、おこがましいのかもしれない。
「何時か、あいつに追い付きたい。でも、それ以上に、お前を置いて行きたくない。だから、」
付いて来いと、連れて行くという囁きは、果たして現実なのだろうか。二つの翡翠はもう揺れてはおらず、ただ未来を見据え、爛々と煌いている。掴まれた手首は酷く熱くて、私には到底、振り払えそうになかった。
2016/05/02 23:35
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