安堵に泣くアーバイン

「、アーバイン、泣いてるの?……どうして?」

「……、泣いてねえ、」

もう、二度と目を覚まさないかと思った――口に出すのも不愉快で飲み込んだそれは、ほんの一瞬前まで脳内をずっと巡っていた言葉。それでも飲み込み切れなかった言葉の一端が雫となって、意思の制止を振り切る様に両の目からしとどに流れ落ちる。制御出来ない感情の波に、呆気無く飲み込まれてしまう。
やっとの事で声に乗せた否定の台詞も細かに震える有様で、自分で言うのも何だが説得力はまるで無い。華奢な体躯を半ば衝動的に抱き締めると、どうやら加減が甘かった様で覚醒したばかりの彼女は苦しげに小さな呻き声を上げた。

「少し痛いよ、アーバイン。私はもう大丈夫だから、泣かないで」

「そりゃあ、三日も眠って大丈夫じゃなかったら、……かなり、問題だな」

「心配かけて、ごめんね」という謝罪は静寂の中へ溶け消えてしまいそうな程に掠れていて、別に微塵も心配していない――なんて、何時もの調子で軽々しく返す事さえも出来なかった。耳を澄ませば、腕に納めた柔らかな温もりの内側から、微かに鼓動の音が聞こえて来る。この三日間に失っていた俺と彼女の"生きた心地"を、ようやく取り戻せた気がした。
嗚呼、確かに彼女は彼女のまま生きている―――――生きていて、くれているのだ。ならば最早、何も言う事は無い。今、この瞬間は、ただそれだけで上々だ。

2016/05/03 00:10


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