ベジットの頬にキスをしてみた
「これだけ、か」
此方が勇気を振り絞って行動を起こしたというのに、行動を起こされた方は眉根一つ動かさず、いっそ不満そうに言う。そっと口付けた頬に朱が走る事も一切無く、その表情はまさしく平然としている。思ったよりも間近に位置する黒い瞳の中に、彼とは何とも対照的な、自分の情けない呆け顔が映し出されているのが見えた。
「なあ、全然、物足りねえんだけど。今度は、……コッチにしてくれるよな?」
上向きに歪められた唇へと、空中を彷徨っていた右手の指先が彼に左手によって導かれる。やがて、何時の間にか私を捉えている二つの黒曜石も、海の様に碧く澄んだエメラルドへと装いを変化させていた。さらさらと視界の端を流れる黒髪が徐々に眩い黄金の光を纏い始める、幻想的な光景から片時も目が離せない。
「俺は気が長い方じゃねえから、とっととしろよ」――言い放った不遜な台詞の割に、実際、声の響きは何とも甘く優しい。火照った額を冷ます間も無く、せっかちな彼の唇が其処を掠めてゆくものだから、私の方が平静を失いかけている。シャラ、と彼の耳元にぶら下がる特徴的なイヤリングが小さく急かす様に鳴いたけれど、内側でもっとうるさく泣き喚く心臓のせいで、殆ど聞き取れはしなかった。
(頬にキスしてみた診断メーカーより)
2016/05/03 01:07
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