おそ松の「付き合ってください」

「なあなあ、頼むよ!俺と付き合ってよ〜!ほんとに!一生のお願いだから!」

延々と、目の前の男は何とも軽々しく、愛の告白らしきものを口から放ち続けている。もう、これで何度目になるだろうか、二桁を突破した辺りから面倒になって数えていない。そりゃ最初は驚いたし癪な事にドキッともしたけれど、正直、今では「またか」という呆れしか感情に出て来ない。
この、松野おそ松という男は言うなれば、とんでもない事故物件だった。二十代半ばにしてニートでおまけにギャンブル好きで、何時まで経っても実家に寄生し続けている。本人曰く「俺は長男だから家だけはキープ出来ると思う。市内に一軒家とか凄くね?」だそうだが、長男以下の六つ子も揃って同じくニートなので、何の魅力も感じない。もれなく六人の成人男性ニート付き中古一軒家なんて、幾ら市内に在ってもリアルに事故物件だ。

「悪いけど、他を当たってよ。どうせ、またトト子に断られたんでしょうけど」

腐れ縁だから気安く言い寄っても来られるんだろうけれど、こう顔を合わせる度に言われたら、堪ったもんじゃない。実際には、私はおそ松にとってそういう対象じゃないんだろう。穴が在れば何でも良いというレベルにまで堕ちてはいないと思うけれど、所詮は出会い頭の挨拶代わりに口説けるレベルなのだ。幼い頃からずっと皆のマドンナだったトト子にフラれ続けているから、もう私で妥協しておこうとか、そんな所だろう。
何だか無性に苛々して、思いの外、返した言葉が鋭くなってしまった。でも、私は悪くないと思う――悪いのは、人の気も知らないで毎度毎度、冗談半分で愛を囁くおそ松だ。苛々の責任を彼に押し付けようとして、私はハッとした。人の気も知らないでって何だ、それじゃあまるで、私が彼の事を―――――

「はあ?何でそこでトト子ちゃんが出てくんの。俺、こんな事、お前にしか言ってないんだけど」

それは心底、頓珍漢な事を言っている人間に対する台詞で。「お前が俺を、そんないい加減な男だって思ってたなんて、お兄ちゃん超ショック。心外だな〜」という声に見遣れば、溜息を零す彼と、目が合った。やれやれ、といった如何にもな様子で肩を竦め、ただ苦笑を浮かべている。

「マジでさ、お願い。こう見えて本気でお前以外には興味無いから、俺」

何時もの口調なのに目は全く笑っていなくて、ぶわ、と不覚にも頬に熱が集まる。どうしよう、もうこうなっては抱いている苛々の原因が"そういう理由"だと認めざるを得ない。何が何だか分からないけれど、混乱した頭で私は何時の間にか、「うん」と良い返事を彼に捧げてしまっていた。

(「付き合ってください」をあなた風に言ってみた診断メーカーより)

2016/05/03 01:32


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