おそ松の余裕を崩したい

「キスして欲しい」と私から彼に強請るのは、これが初めてだった。女慣れしてそうなくせに実は意外と初心な彼は、まだそういう雰囲気に慣れないのか、余りキスをしてくれない。斯く言う私も慣れてないので自分からキスしたりなんて出来ないし、でもやっぱりキスはしたいし、葛藤した結果、彼に頼む事にした。これはこれで途轍も無く恥ずかしいけど、自分からキスするよりは遥かに難易度が低いと思ったから。
ぽかん、と口を開けた、間の抜けた表情は、そう滅多に見られるものじゃない。「えー、なになに、欲求不満?」――だが、すぐに彼は何時も通りの調子に戻ってしまう。ああ残念、ほんのちょっとだけ、彼の心を剥き出しに出来たと思ったのに。どうやら、その牙城を突き崩す為には、もう一押しが必要らしい。

「っていうかさ、キスだけで良いの〜?」

彼が口にするのは冗談半分の軽口であって、決して本気じゃない。実際、こういう事を言われるのは初めてではないけれど、私が受け流せば、それで終わりだった――あくまでも、今までは。彼も私がどう返すか分かっていた上で言っていたんだろうが、今日ばかりはそうもいかない。例えば、ここで何時もと同じ様に受け流したって、彼は私の望み通りキスをしてくれるだろう。でも、もうそれだけじゃ意味が無い気がして、いっそ私は完全に恥を捨ててみる事にした。

「その先も、して欲しいな」

そこで、彼の顔にべったり張り付いていた、にやにやとした笑みが愉快なくらい一気に消えた。彼は不慣れながらも何時だって私をリードしてくれて、格好付けているのか、余裕ぶった表情を崩した事は余り無い。貴重だと思って食い入る様に見詰めていたら、ようやく私の言葉を咀嚼したらしい彼の間抜け顔が、真っ赤に染まった。これもまた珍しい光景で、私は余計に彼から目を離せなくなる。
「ねえ、おそ松くん、」と、急かす様に名前を呼んでみたら、反らされていた瞳が此方を向いた。何時もの飄々とした雰囲気は何処にも無くなっていて、何がしかの覚悟を決めた様に気高く、それでいて淫靡な熱を宿した瞳。それに見惚れる間も無く、余りにも性急な動きで彼の下に引き倒される。強かに打ち付けた背中が酷く痛んだけど、それも一瞬の事で、すぐさま降って来たキスに痛みは吸い込まれた。

「せっかくだから、挑発に乗ってやろうじゃん」

また余裕が戻ってしまった笑みは、それでも何時もより少しだけ切羽詰まっている様で、胸の奥がきゅんとする。其処に在るのは雌を屈服させたがっている雄の、ぎらぎらした眼差し。いったん決意したら後はもう一切合切迷わないらしい、慣れていないくせして手付きにたどたどしさは全く無い。ぺろりと舌なめずりするのが様になり過ぎていて、私は結局、彼に敵わないって事を知っただけだった。

(あなたにキスを強請ってみた診断メーカーより)

2016/05/03 01:40


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