いい匂いがして目が覚めた。 ふんわりと香る、ムスクの香り。 だけどどこか爽やかで安心する匂い。 スリっと裸の胸にすり寄れば、逞しくて張りのある肌が頬に触れ、頭の下にある腕が優しく肩を撫でた。 それが優しくて嬉しくて、ふふっと笑いながらぎゅっと細い腰に腕を回せば、両腕でぎゅっと抱きしめて髪にキスをしてくれる私の愛しい人。 優しく「起きたん?」と問いかけるその声は、寝起きだからか掠れていて鼓膜を甘く揺らした。 起きてない、と言うように頭を振れば優しい指が髪を掬う。 「もう起きてや、寂しいやん」なんて可愛い事を言うから、たまらなくなって目を開けた。 綺麗に日焼けした小麦色の引き締まった胸、細い首筋、唇の下にセクシーな黒子、大きな鼻に目の下の泣き黒子、長い睫毛に囲まれた大きくてブラックダイヤみたいにキラキラと綺麗な瞳が優しくこちらを見つめている。 そうそう、世界一かっこいい私の亮ちゃん。 りょう、ちゃん...? 「......えっ?」 「起きた?おはよ」 「え...なんで」 「なに、寝ぼけてるん?」なんてふんわりと笑う亮ちゃんの指が私の髪を梳き、指に絡めた髪に口付ける。 カーテンの隙間から漏れる朝陽に照らされたその姿が、とっても様になっていてかっこいい。 月並みだけど、本当にかっこいい。 でもなんで?私の彼氏は忠義だったはず...。 「え、っと...亮、ちゃん?」 「改まってなにぃ?名前のダーリンの亮ちゃんやろ?」 肘をついて見下ろす亮ちゃんが、可笑しそうに眉を上げた。 テレビで見るのと同じ表情、だけど寝癖で乱れた髪が可愛くてセクシー。 「寝起きまでかっこいいんだね、亮ちゃんって」と呟いた私に、首を傾げた亮ちゃん。 「え、どうしたん?いつも見てるやん」 「いつも、見てる?」 「ちょ、待ってやほんまどうしたん?変やで」 「へん...?」 確かに変だと思う。私の彼氏は私の記憶が正しければ大倉忠義だったはずだし、目の前に裸の亮ちゃんが居るのもおかしい。 眉を寄せ怪訝そうに私を見下ろす姿さえかっこいい亮ちゃんの背後のカーテンは間違いなく私の部屋のものだ。 くるりと視線を動かして辺りを見回しても、何らおかしな所はない。 電気も壁紙も、前に住んでいた部屋から持ってきた白のチェストも、サイドボードの上のリモコンで色が変わるキャンドルライトも何ら変わりのない、私の部屋の物だ。 どちらかと言うとおかしいのは、ここに居るはずのない亮ちゃんが私を抱いて寝てた事だ。 なんで亮ちゃんが?忠義はどこ? なんてぐるぐると考え巡らせている私の肩に「なぁ、ほんまに大丈夫?」と亮ちゃんの大きくて、でも忠義よりは小さい優しい手が触れた。 亮ちゃん... 「えぇっ!亮ちゃん?!」 亮ちゃんが自分の部屋に居る事実に我に返り、がばりと起き上がり見下ろすそこには心配そうな表情からへらりと目尻を下げた亮ちゃんがいる。 「めっちゃええ眺めやねんけど、朝から誘ってるん?」 「は...?なに、」 ぎゃー!なんで私裸なの?! 慌ててタオルケットに包まり枕を抱きしめ縮こまった。 こんな貧相な体(主に胸)を亮ちゃんに見られたなんてと年甲斐もなくぐずる私に、「何を今更...」と呆れたような亮ちゃんがタオルケットを引っ張るから、枕にしがみつく腕に力を入れた。 それに追い打ちを掛けるように「何度も見てるし。なんなら昨日も見たし揉んだし舐めたし」なんて言うもんだから、いよいよ頭が沸騰しそうだった。 「ああ、もうダメ...いっその事気を失いたい...」 とぶつぶつ呟く私に、からかうようにニヤついた声で 「なんて?気を失う程気持ちよくなりたいって?」 なんて言いながら横向きで丸くなっていた私をころりと転がし、抱きしめていた枕をぽいっと下に落としてしまった。 「りょ、ちゃん...」 「んー?」 「まっ...あの、なんの冗談ですか...これ」 タオルケットをぎゅっと握る手に力が入る。 なんで亮ちゃんがここにいるのかもこんな状況なのかもわからない。 亮ちゃんは怪訝な顔をして、この状況が理解出来ていない私に腹を立てているような不機嫌丸出しの顔を見せた。 そんな顔もかっこいいなんて...錦戸亮って本当に罪な男だと思う。 「だから冗談ってなんやねん、さっきからほんまおかしいで?」 「や、だって...」 「思い出せへんのやったら体で思い出させたるわ」 「待って、亮ちゃん...」 私の顔の横に肘をついた亮ちゃんの小さい顔が近付いてくる。 私は身動き一つ取れず、生命維持の為の呼吸をするのがやっとで。 だってあの亮ちゃんなんだもん。もう15年以上追い掛けてきた憧れのアイドルなんだもん。 もうこのまま行く所まで行ってもいいかと、朝からダダ漏れの色気を前に目を閉じる寸前過ぎった彼氏の顔。 やっぱり... 「だめっ、亮ちゃん...」 「大丈夫やって」 「亮ちゃん...ダメ...っ」 待って亮ちゃん...ダメ... 「なんやねんそれ」 「...ごめん」 今日はお互い休みだからゆっくり出来るね、なんて昨日の夜はいつも以上にゆっくり時間を掛けて愛し合った。 前から後ろから上から下からぐったりする程攻め立てて、余すこと無く名前の体を撫でてキスして愛し合ったはずや。 俺の愛は届いてたはずやねん。 名前より早く目が覚めた俺は、ぐっすり眠りこける名前を眺めながら幸せに浸り、髪を撫でたり裸の肩に触れたり起きて欲しいような寝かしておいてあげたいような、擽ったい気持ちで幸せを噛み締めていた。 むにゃむにゃと寝言にならない声を出し始めた名前を見て、どんな夢を見てるんやろうか、そこに俺は居るんかなとじんわりと暖かい気持ちで名前の髪に触れた、途端。 名前ははっきりと言ったのだ。「亮ちゃん」と。 「待って亮ちゃんダメ」って言ったんやで!俺の腕の中で! そら名前は亮ちゃんのファンやし、夢くらい見る事もあるやろ。それはええわ。 でもなんで!俺の腕の中で、しかもめっちゃ愛し合った夜に見んねん! ジュデイ・オングか! 名前を叩き起して、グズるのも無視して俺のシャツ一枚被せてリビングのソファにふんぞり返る俺の下で正座させた。 最初こそ寝惚けてふにゃふにゃしてたけど、なんの夢見たんか問いただした。 それはそれは嬉しそうに話してたけど、俺がむっつり黙り込んだのに気付いたのか今はしゅんと眉を下げて俺を見上げている。 そんな表情が亮ちゃんみたいでまたイラッとした。 「だって...」 「だってちゃうやろ」 「でもぉ...夢じゃん」 「普通俺と寝てる時にそんな夢見るか?」 「夢は意識して観れるもんじゃないし...それに、」 「それに、なんやねん」 「夢の中でもちゃんと断ったじゃん。彼氏は忠義だからって」 「それは...そうやけど」 じっと俺を見つめる曇のない瞳。 そうやねんな、名前は夢の中でも亮ちゃんじゃなくて俺を選んでくれたんよな。 それを思うとこんなに、八つ当たりする事でもないんかな...。 「ただよし...」と、寝起きで掠れた小さな声で俺の名前を呼んで、俺の膝に触れた。 足の間に入り腹に顔を埋めるように抱き着いた名前。 「ずっと不思議だった。どうしてここに亮ちゃんがいるのかって事よりも、どうして忠義が居ないのかって」 「うん」 「私の彼氏は忠義なのに、って。亮ちゃんは憧れのアイドルだからこれからも夢を見る事もあると思う。でも私が好きなのは忠義だよ」 「忠義しかいないよ」と、しっかりと俺の目を見てキッパリと言い切った名前。 胸がじんわりと熱くなって、これが愛しいって事なんやなって。 膝に抱え上げて抱き締めると当然のように首に回される細い腕に目の奥が熱くなる。 またくだらないことで名前を困らせてもうた。 「ごめんな、」 「んー?いいよ、わかってるもん」 「何が?」 「忠義がヤキモチ妬きだって」 名前が笑うから耳元がくすぐったい。 幸せやな、って。 「チューしよ、まだしてないよ。おはようのチュー」と、甘く鼓膜を揺らす名前にとびっきり甘いキスをしよう。 それから名前の好きなパンケーキを焼いて二人で食べよう。 その後はコッテコテの甘い恋愛映画を見てもいい。 でももう少しだけ、このまま名前を抱き締めていたい。 俺の愛しいは、ただ名前がそばに居てくれる時間なんやな。 --END-- 2016.11.30 |