卒業式に相応しい、真っ青な空。 春らしく強い風が吹き抜ける屋上から、別れを惜しむ同級生や下級生がごった返す校庭を見下ろす。 もうここに来るのももう最後か。 特別これといった事件もハプニングもなかったけど、楽しい3年間だったな。 心残りはない...はず。 それなりに遊んで、それなりの青春を過ごしてきたと思う。 ただ1つ気になるのは、後輩や同級生から追いかけ回されてるであろうアイツの事。 3年間同じクラスで馬鹿やったり喧嘩したり、いつの間にか私の中で大きな存在になってた。 顔が良くて、口は悪いけどふと見せる優しさに、好きになるのに時間は掛からなかった。 同級生からも後輩からもモテていたし、女の噂が絶えないアイツの数少ない女友達としてのポジションに甘んじて3年間過ごしてきた。 特定の彼女はいなかったみたいだけど、2年の可愛い子と腕組んで歩いてたとか、C組の美人とキスしてたとか、そんな噂は日常茶飯事だった。 それでも私との約束を優先してたし、いつも私の隣にいたからずっとこんな日が続くと思ってた。 でもそれも今日で終わり。 私は私立の女子大に、アイツは国立の四大に、春から別の道を歩む事になった。 私の気持ちを知ってる友達は告白しろとせっついてきたが、この関係を壊すのが怖くて言えずじまい。 仲が良かったメンバーとこれからも遊ぶ事もあるだろう。 でも今までのようにはいくはずがないのはわかってる。 大学でもきっとモテるアイツの事だから、すぐに彼女が出来て彼女が最優先になるだろう。 やっぱり告白して、キッパリ振られた方がすっきりしたかもな...なんて。 一際強く吹き抜けた風に思わず自嘲がこぼれる。 「パンツ見えんで」 「びっ...くりした...」 「何してんねん。あいつら探しとったで」 「亮こそ女の子が探してるんじゃない?」 「あー...ほんま女子のパワーえげつないわ(笑)」 笑って隣に並んだ亮を見ると全開になった学ランのボタンは何故か全部しっかりと付いていた。 「あれ?ボタン取られなかったの?」 「ん?」 「シャツのボタンまで全部もぎ取られるかと思ってた(笑)」 「あー...うん」 「誰かあげる人がいるんだ?」 そっか...そういう人いたんだ。 全部のボタン残すくらい、大事な人が。 きっぱり振られたほうがすっきりするなんて思ってたくせに、いざ報われない事実を突きつけられるとやっぱり辛い。 鼻の奥がツンとして、視界が滲む。 「なに?泣いてるん?」 「泣いてないし。花粉症なの」 「そっか…お前はさ、誰かにボタンもらいに行かんの?大倉とか」 「大倉?なんで?(笑)」 「仲ええやん」 「えー?そうかぁ?普通でしょ」 「後輩の子とかによう聞かれたで?お前と大倉付き合ってんのかって」 「やめてよあんな女ったらし(笑)」 「女ったらし(笑)」 「あ、亮もだった(笑)」 「なんでやねん(笑)」 「ふふっでもまー大倉はモテるのわかるけどねー」 「そうなん?」 「だってまーあの顔でしょー?背も高いし、優しいし、雰囲気柔らかいしね。気持ちはわかるけど」 「ベタ褒めやん(笑)」 「でもナイけど(笑)」 「頑なやな」 「って言うか、その前に大倉好きな子いるしね」 「えっ!そうなん!知らんし!」 「今頃その子の所に行ってるんじゃないかなー」 「そうやったん…」 「うん。で?まだ帰らないの?この後みんなでいつものお店でしょ?」 「あー…うん」 「ボタン、あげに行かなくていいの?待ってるんじゃない?」 「あー…のさ、」 「ん?」 「お前にやるわ」 「…なにを?」 「ボタン」 「え、なんで…あげる人いないのぉ?(笑)それなら欲しい人たくさんいるんだからその子達にっ」 今の自分には笑って聞き流せない。 亮の言葉の意味を測り兼ねているとぎゅっと腕を掴まれた。 「俺が他の女にボタンあげてええの?」 「なに...」 「俺がお前の為に残しておいたボタン、あげてええの?」 「何言ってんの...」 「また泣きそうやん。」 「だって...」 「好きやねん」 「.........」 「ずっと、好きやった」 「りょー...」 「こっち来て」 見た事のない優しい眼差しに一歩踏み出す。 亮の腕が腰に回り、腕を掴んでいた手が優しく頬に触れる。 「ボタン取って」 「……りょ、」 「俺の事、好きやったら…取って?」 震える手で上から二番目のボタンを掴む。 「亮…」 「うん」 ボタンを掴む指に力を入れる。 ぶちっと重たい衝撃が腕から胸に伝わった瞬間、腰を引き寄せられ… 「んっ…」 おでこに亮の柔らかい前髪が触れる。 ああ、キスされてるんだ…と理解した直後、亮のぬくもりが離れた。 鼻が触れそうな距離で上目遣いに見つめられて急に体温が上がるのを感じる。 「亮…」 「好きや」 「うん…」 「お前は?ちゃんと言うて」 「私も好き、だよ…亮の事…」 「はぁぁぁぁぁ!もおおおおおおお!」 「えっ…」 ぎゅっと抱きしめる亮の腕が震えてる。 「よかった…もう、このままなんかなって思ってたし…」 「それは私も思ってた」 「なんで言わへんねん。って言うかいつから好きやったん?俺の事」 「だって…亮ちょこちょこ彼女みたいのいたし…」 「おらんしそんなん…」 「亮だって…もっと早く言ってくれればよかったのに…」 「…お前は大倉が好きなんやって思ってたし」 「だからなんで大倉…」 「でもほんまによかった…」 「うん…」 力強い腕の中で風にふわりと香る亮の優しい匂いを胸いっぱいに吸い込む。 出会いと別れの季節だけど、私と亮に別れの季節が来ない事を祈って... 「浮気、しないでね?」 「...しないから俺んち行こ」 「は?」 「俺がどんだけ我慢したと思ってるん?」 「ばかじゃないの!」 |