最終公演も無事に終わり、シャワーを浴びてさっさと会場を後にした車中でやっとチェック出来たスマホを手に固まってしまったのは仕方ないと思う。 未読のメッセージが何十件も着ていたのだ。 何事かと、何かあったのかと彼女のアイコンをタップするとそこには怒った猫のスタンプがズラッと並んでいた。 怒っている。心当たりなんかあるわけないよな、だって俺ずっと静岡に居ったしコンサートしてたし。 スクロールしていくと怒った猫が泣き出した。 そして、『キャンジャニちゃんが出るなんて聞いてません』という一言で怒涛のメッセージは終わっていた。 え?キャンジャニ? そうだ、名前はびっくりする程キャンジャニを気に入っていた。 勿論、倉子じゃなくて錦子やけど。 なんならあの制服借りれないの?倉子でもいいから見たいなんて言っていた。 きっと入った友達から連絡でも来たんだろう。 帰ったらヘソ曲げてるんやろな、と溜め息を吐くとすばるくんが嬉しそうな顔をした。 「何?美人のほうの彼女?」 「だから俺の彼女は1人やって!何回するんこのくだり!(笑)」 「だってなぁ?(笑)」 「もう忘れて。フライデーは忘れて!」 「で?美人のほうの彼女がなんやって?」 「え?キャンジャニが出るなんて聞いてへんって怒ってる」 「ええ!そこ!?」 「あっはっは!うそやん!」 「ほんま。名前めっちゃ好きやねんキャンジャニ」 ほら、と画面をスクロールして見せると心底可笑しいって顔で笑ったすばるくんとヤス。 笑い事ちゃうし。機嫌直すの大変やねんもー。 「猫めっちゃ怒ってるやん(笑)」 「もー機嫌直すん大変やねんってー」 「教えてあげへんかったん?」 「だってネタバレ嫌いやねんもん」 「それでもオーラスだけはって言うてあげたらよかったやん可哀想に」 「えぇ?俺が悪いん?」 「そらそうやろ」 「俺の味方おらんの!(笑)」 「俺はいつでも美人の味方や」 何故すばるくんが名前を知ってるのかと言うと、これは偶然だった。 待ち合わせの場所に少し遅れて行くと、そこには男と話す名前が居った。 ナンパかと思ったけど名前も可愛い笑顔を見せていて誰やねん!と後先考えず二人の間に割り込んだ。 それがすばるくんだったから良かったものの、後から考えれば軽率やったなと思ったのは記憶に新しい。 なんでも名前が落としたSuicaをすばるくんが拾ってくれたらしい。 お礼を伝えすばるくんですよね、なんて言ってる所に俺が割り込んだのだ。 それで一緒にご飯でもーなんて言って、気持ちよく酔ったすばるくんは名前を気に入ったようだった。 勿論すばるくんにも口止めはしている。 わかったわかったなんて軽く言ってたけど、実は山田の2人よりすばるくんが一番心配だ。 つるって言っちゃいそうで冷や冷やする。 「名前ちゃんの好きなもんでも買ってってあげたら?」 「名前の好きなもんー?」 「何が好きなん?おっちゃん買うたろか」 「うーん...」 「シュークリームか?ケーキがええか?」 「桃が好きやねんなぁ」 「桃!ほな高級桃買うたろ!」 「んはっほんま?ラッキー!」 「ラッキーちゃうわ!お前に食わせる桃はねぇ!」 「それタンメンや」 「うわ!ヤスが突っ込んだ!(笑)」 「腕上げたな」 なんて笑うすばるくんとヤスをよそにどうしようかと考える。 キャンジャニを見れなかった名前の機嫌が桃ごときで直るとは思えない。 そう言えば、と。 丸がキャンジャニのPV撮りの時しつこい程に写真を撮ってたのを思い出した。 錦子の写真ないかな...あるはずや。丸は錦子がお気に入りだったから、お前ほんまに!と怒鳴られても撮っていた。 「なー丸ぅー」 「なにー?」 「キャンジャニのPV撮りの時撮った写真ってまだあるん?」 「え?あるよ?丸子の写真欲しいん?」 「ブスはいらん。錦子ないん?」 「錦子ちゃんあるよぉ。いっぱいあるよ」 「何枚か送ってくれへん?」 「え?!大倉お前...」 「やだ!大倉ったら錦子ちゃんにラブなの?」 「ちょ、ほんまやめてちゃうから!俺ちゃうから!名前!」 亮ちゃんが別の移動車でよかった。 ここには計ったかのように俺の彼女をしるメンバーしかおらん。 亮ちゃんや横山くんがおったらうるさくなんで錦子の写真がいるんやと、横山くん辺りがしつこくいじってきただろう。 ほんま助かった。 「名前ちゃん?」 「キャンジャニ見れなかった機嫌はキャンジャニで直さな無理やねん多分」 「あー錦子の画像で?」 「それでどうにか機嫌直してくれへんかなって」 「名前ちゃんの為なら何枚か送るわ」 ピコンピコンとスマホが音を立てて送られてきた錦子の画像。 なんでこんなんがええんかな...錦戸亮のほうが全然ええやんって思うけど、なんかちゃうらしい。 「この錦子ちゃんお気に入りやねん!可愛いやろ?」 「かわい...いんかなぁ?名前なんでこれ好きなんやろ...理解出来ひん」 「ほら、丸子もあげる!」 「ちょ!丸子いらん!ブス!余計機嫌悪くなるわ!」 「失礼ね倉子!」 「倉子ちゃう!今は大倉や!」 「今は大倉やて...そんなツッコミあるかい(笑)」 「あ、この亮可愛いな。めっちゃぶりっこしてる!」 「あっは!なんやねんこれ(笑)」 「可愛いやろー?俺の一番のお気に入りこれ」 「きっつー(笑)おっさんやで俺ら(笑)」 「ほら、倉子もあげる」 「あ、俺全員で撮ったやつあるー」 それからヤスから全員でぶりっこして撮った写真、錦子が安子のスカートを捲ってる写真、ブレザーですば子が錦子にイカを押し付けてる写真、世に出回ってない(と言うか出せないような)写真まで送られてきた。 俺のカメラロールにキャンジャニが大量に増えた。これで機嫌直してくれるとええけど... 「機嫌直るとええな」 「試しに1枚送ってみて」 一番可愛くぶりっこした正統派の錦子の画像を送る。 ごめん、と一言添えて。 するとすぐ既読になり届いた返事で気が抜けた。 「もー...」 「なんて?」 口に出すのも憚られて、画面を見せる。 『え!錦子たん!かわいい!なにこれこんなの知らない!やーん!きゃわたん!錦子たんきゃわゆい!!』 「あっはっは!なにこれぇ!(笑)」 「あっは!テンションたっかぁ!(笑)」 「え、あの美人こんな感じなん?(笑)」 「そうやねん...亮ちゃんの事になるとこうなんねん...」 「めっちゃおもろいやん(笑)」 「全然面白くないわ」 「もしかして昨日のナポリタンの時のきゃわたんとかつらたんってこれなん?(笑)」 「そうやねん...テレビとか見ながら言うねん」 「オタクやん!(笑)」 「ほんまそやねん!オタクやねん!」 「でも機嫌直ったみたいやん」 「そうやな、なんか腑に落ちひんけど」 『よかったな。もうすぐ新幹線乗るで』と返すと『はーい』と機嫌の良さそうな踊った猫のスタンプが返ってきた。 スマホをオフにして、大きな溜め息が漏れた。 機嫌が直ったのはええけど、それが亮ちゃんのおかげって言うんがなぁ... なんとなく気分が落ちて、重い足で新幹線に乗り込んだ。 --END-- 2015.9.14 |