左馬刻が振られる話
和解後、左馬刻と一郎は二人で食事に行く機会が増えた。これはその中でも最後の夜の話である。
「ん」
「あ?」
それは別れ際だった。一郎が単音と共に左馬刻に拳を突き出した。左馬刻は困惑しつつ反射的に手のひらを上にした手を差し出し返した。一郎の拳が緩む。ころん、と左馬刻の手に落とされたのは一粒のピアスだった。
左馬刻が目を眇める。見覚えがある。
「二年前、アンタから盗んだ」
腕を戻してパーカーのポケットに両手を突っ込んだ一郎が口を開いた。急激に記憶が像を結び、その衝撃で思わず左馬刻の口から「あ」と声が漏れる。
ああ、そうだ、そうだった。そしてその時盗まれたのはピアスだけではない。
「返すよ」
一郎の言葉に“ピアスを返す”以上の意味が含まれていることに気付き、左馬刻は咄嗟に口を開く。しかし、一秒、二秒……言葉が出てこない。
口を開いて、閉じる。その無意味な動きをしばし繰り返す。
「……いらねぇよ。持っとけ」
ようやく絞り出した言葉が、我ながら情けない、と左馬刻は唇を噛む。もっとかっこいい言葉を……しかし思考が纏まらない。
「いや」
一郎が俯いて、零す。
「もう、いらねぇ、から」
左馬刻は叫びそうになった。ここまでキレイに振られたのは久々だ。
「そうかよ!」
苛立ちに任せ、ピアスをそこの側溝に投げ捨てる。一郎はどこか遠い目でその様子を見ていた。動揺の一つもすれば可愛げがあるのに、色違いの瞳はどこまでも凪いでいる。こちらといえばいますぐ汚い側溝の底をひっくり返して汚れた恋心を一郎が受け取るまで押し付けたいくらいなのに。
「じゃあ……気を付けて帰れよ」
誰にもの言ってやがんだ未成年、と左馬刻は舌打ちする。だが小さくなっていく背中に縋りたくなったのも事実だ。もう二人で食事に行けない。行かない。意味がないから。