ながら手コキ


 ムラムラする。
 健全な十九歳のコンディションを端的に表すとしたらこの六文字だ。弟たちは外に食事、俺の自室、隣に恋人、二人きり、夜。完璧だ。完璧なのに空却は全くそういう空気を醸さず俺のラノベを呼んでいる。俺のベッドに座って。
 え、もしかしてこの流れでセックスをしない……?
 さっきまで操作していたスマートフォンを床に置いて、そろりそろりと空却に後ろから近づく。こてん、と肩に額を置いて「空却〜〜」と呻く。しかし、
「拙僧、明日早い」
 無慈悲。一蹴。ラノベから目も逸らさないまま。
 普段なら引き下がっていた。事情が事情だ、仕方ない、と。しかし、今日だけは下がれない。なんといってもムラムラがピークだし、空却と会うのはなんだかんだ二週間ぶりだ。それにしても、なんでこいつは平気なんだ?坊さんっていうのは、そういうところも悟っているのか?俺たちの温度差に少し寂しくなる。だからこそ引き下がるわけにはいかない。
 空却の前に回り込み、膝に頭を置く。上目で首を傾げる。
「まじでだめ?」
「だめ」
 かちかちかち、とお行儀悪く歯を鳴らす。ふと空却の手が俺の髪を梳くように頭を撫でる。そんな接触にもいちいち胸が高鳴り、この鬼!と叫びたくなる。股間は既に苦しい。
「空却頼む……なんか奢るから」
 ちんぽ爆発する、とぼそりと呟く。金で恋人との一夜を買おうとする虚しさよ。俺が思わずため息をつくと、上からも小さなため息が降ってきた。
「わーった」
 やった!思わずガバッと起き上がる。しかし、次に続いた言葉に俺は唖然とすることになる。
「手だけ貸してやる」
 ……手だけ?ぽかん、と口を開ける。俺の脳内資料が勢いよくパラパラパラとめくられ、ある項目でストップする。
 それはもしや、
 “ながら手コキ”
 というやつでは?!


***


 空却はラノベを読んでいる。真剣な面持ちだ。しかし向かい合って少し右にずれると、卑猥としか言いようのない非日常の光景が広がっている。左手に握られてコシュコシュ扱かれるちんぽだ。
 もとより半勃ちだったそれは、空却の白い手にぎゅうと握られただけで喜んでほとんど完勃ちになった。目もくれず、機械的に単純な上下運動による搾精に背筋がぞくぞくする。
「っ……」
 空却の涼しい横顔とは対照的に、上下する手はそこそこ大胆な動きをしている。捻りも何もない単純な上下運動なだけに、その動きの大胆さは目につく。涼しい金色の目を縁どる赤のアイシャドウに見惚れて、ちんぽもぐうと大きくなる。
 勘違いしてはいけないのは、普段ならば、空却は性交に対してもっと積極的だということだ。手コキにしても、きんたまを転がしたり、それこそちゅうと先端に口付けて、くびれの先だけいじめたり根元を集中的にやったりと、こちらを飽きさせない手法を自らあの手この手でやってくる。といっても、別に今の空却が不機嫌なワケではない。己の感情を隠して他者に迎合するなど間違ってもしない男だ。今はおそらく、俺がこうしてながら扱いされるのを好んでいることを分かった上でやっている。実際、パーカーの裾を掴み、若干反り腰で空却の搾精を受ける自分の間抜けさに底なしに興奮している。

 空却は本当に一瞥もくれない。見て欲しいのかそうじゃないのかもわからず、ただ見てくれないかと焦れて焦れてしまっていることだけが確かだ。そして焦れれば焦れるほど興奮する。ちんぽが生き物のようにぐんぐん膨らみ、いよいよ先端からとぷりと我慢汁をあふれさせた。
 丸い玉のように先端から溢れたそれは、竿を伝って滑り落ち空却の手の動きと合流した。こしゅこしゅ、と乾いたものだった音が、ねちょねちょ、と水音が混じるそれに変わる。しかし空却の横顔は微塵の動揺も見せず凛としている。手の感触も不快だろうに、それをおくびにも出さない。本当にただ、搾精するだけの機械的な動きだ。そこに情も愛もないのではないか、と錯覚するほど。ないがしろにされている筈なのに、興奮で息があがるのが止められない。
「ハァっ……ハァ、ハァ」
 
 その内、単純な上下運動に刺激が慣れ始めた。触れられているところはくびれの下あたりから根元までだが、そのあたりの刺激が鈍くなってきた。
 根元から上に扱き上げる際、くびれより上、亀頭の部分に親指と人差し指の輪がひっかかるように触れる。敏感な先端へのその時の刺激がたまらない。たまらず、求めて、腰をゆすってしまう。最初は、空却の手が下から上に上がる際、より亀頭への刺激を求めて腰をかるくゆするだけだった。しかし段々と腰の動きが止められなくなってくる。かくかくかく、と気付いた時には手の動きに合わせるように腰を振ってしまっていた。手の筒、柔らかい肉の筒に向け、腰を振る。加速する己の間抜けさに口端から涎が垂れ、パーカーの裾を掴んだままの手でぐいっと拭う。

 手が先端から根元に向かう時、腰を突き入れ、逆に引き抜くときに腰を引く。黒々とした陰毛の生えた根元と手がぶつかり、たんたんっと卑猥な音を立てる。我慢汁は益々だくだくと溢れ、空却の黒のポリッシュを透明なそれでどろどろに汚してしまっている。汚している、俺が。綺麗に手入れされた爪が並ぶ手だけではなく、その涼しい横顔に不意打ちでぶっかけてやったらどんな顔をするのだろう、という悪戯心が湧く。怒ってもいいし、挑発的に口端の白濁をねぶられてもう一回戦にしゃれこんでもいい。どちらも妄想だが。
 妄想は加速するばかりだ。余裕ぶってラノベから目を逸らさない顔を、乱暴につかんで口の中にぶちこんでやったら。鼻の穴に直接注いでやったら……。益々ちんぽがバキバキに勃ち上がる。湯気が出んばかりだ。

 その内気付く。空却はもう手を動かしていない。筒の形になった手に、俺が勝手に腰を突き入れているだけだ。あまりに鼻息荒く必死に腰を前後させているため、体は若干前傾してしまっている。ぽたぽた、となにか垂れる音がした。俺の汗かと思ったが、大量の我慢汁が睾丸を伝い床に落ちる音だった。よくよく耳を傾けてみると、ぽたぽた、などとかわいらしいものではなく、粘着質なそれ特有の、ぼたぼた、といっている。
「ハアッ、クソっ……!!」
 腹の底から射精感が急激にこみ上げる。まだイきたくない、勿体ない、と思うのに、一方本能は射精を求める。手の肉筒をおまんこと勘違いして、種付けを欲す。

 どこにも種は付かないのに。それどころか、恋人はこちらを一瞥もせず、手など動かすことすらせず宙に置いてあるだけなのに。己だけが鼻息荒く腰を振りたくっている。その傍から見れば間抜けとしか言いようがない事実に鼻血が出そうなくらい興奮する。
「クソ、イくっ、出るっ……!!」
「…………」
 噛み締めた歯の隙間から絞り出した呻きにも空却は無視だ。最高。
 空却の手の上から手を重ね、ぎゅうと握る。より圧が強くなった肉筒の中にばちゅばちゅばちゅ!と音がするほど強く腰を突き入れる。
 しかし、本当に空却はこちらを見ない。本気でその横顔にぶっかけてやろうか、と思った時、ハッとした。
 空却はちんぽを握った時から一度もページをめくっていない。

「……ッ!!」
 びゅ〜〜〜♡♡びゅるるる、びゅぅ〜……♡♡
 先端に己の手をかぶせて射精する。腰が抜けるのではないか、というほど深い射精だった。
「ハアッ、ハアッ、ハア……」
 手のひらの隙間からぼたぼた、と床にザーメンが垂れ落ちる。掃除する未来を想像して面倒臭い、と思うより、ようやくちらりとこちらを見た空却に夢中だった。しおしおと萎えたちんぽを握る空却の手は脱力しているが、その上から手を握りしめ外させない。ゆるゆる扱き、ふたたびちんぽを戦闘モードに育てていく。
「なあ、空却……」
「……んだよ」
 腰を進めて、先端をずりっと空却の頬に擦り付ける。じわじわと空却の頬が赤く染まっていく。ちらりとこちらを見てしまった以上、自分から逸らすことはプライド的に許さないのであろう金目がとろとろと溶けていく。
「今ならまだちんぽくれてやってもいいけど」
「……あぁ?」
 にやり。艶やかに持ち上がった口角は生意気な単音を吐き出すが、顔はもう溶けてしまっている。ちんぽが欲しい、と書いてある。ぐいっと擦り付けられたザーメンを拭わないのがいい証拠だ。
「空却、“ちんぽください”は?」
 形勢逆転。すっかり小刻みに震える金目と薄く開いた唇。その手から落ちるラノベ。俺は己でも分かるほど悪い顔で口角を歪めた。