桃花褐
「お疲れ様」
「お疲れ様です!今日はゆっくり過ごしてください」
バタン、と扉が閉まり足音が遠ざかっていく。ポン、と扉の向こうでエレベーターが到着する音。天国獄の気配と足音が消えるのを待って、さきほど上司をにこやかに見送った新人受付スタッフの彼女はスッと表情を消して口を開いた。
「所長って、変わってますよね」
「変わっ……」
思わず言葉を詰まらせたのは獄の後輩弁護士だ。ちらり、と伺うが、雇用当初からどこか個性の尖っていた彼女は感情の読めない無表情で淡々とデスク周りの掃除を行っている。
「こだわりが強くて頑固なところとかすごいDomっぽいのに、コマンド全然使わないじゃないですか」
「…………」
はぁぁ〜〜〜〜。いっそ演技かかった大げさなため息をつき、後輩弁護士は額に手を当てて首を振る。そのリアクションに、新人受付スタッフは不思議そうにきょとんとする。
「みんな、その道通るんだよなぁ……」
「え?」
「覚えとけ新人。所長はSubだ」
「え!?」
***
「かっけぇー」
「あれ何て車?」
「ジャガーじゃね」
赤信号待ちのジャガーに釣られた学生たちが、歩道の片隅に数人集る。彼らは見慣れぬ高級車を写真に収めようと、並ぶ植木から身を乗り出さんばかりに前のめりになって携帯を構えている。
一方、注目の的である車の主――運転席の男――天国獄は、切羽詰まった気配を醸して手のひらで顔を撫でる。
『19時までに帰ってこい』
「……“19時までに帰ってこい”……」
何度も何度も読み上げた携帯のメッセージを“これで最後”と自分に言い聞かせてもう一度だけ読み上げ、惜しみながらサイドボタンを押して携帯の画面を消す。じんわりと全身に汗が滲んでいる。今日は獄の誕生日。そして空却と会うのは実に二週間ぶりである。これから、会う。脇に汗が滲み、指先で車内クーラーの向きを調整しようとして、自分の手が震えていることに気付く。
「うわ、乗ってる人までかっけー」
パシャ。シャッターを切る音。しかし天国獄は気付いていない。家に帰ってからのことで頭がいっぱいで、貞操帯に締め付けられた股間がギチッと甘く痛む。落ち着きがなく、しきりに襟を正している。
「あれってまさか、ヘブンアンド……」
信号が青になる。学生の一人が発した言葉を待たず、車が発進する。現在時刻、18時45分。
***
震える手で玄関の扉を開けた獄を出迎えたのは、腕組して廊下に肩を預ける空却だった。眉間に皺を寄せた金色の瞳に射抜かれ、ビクッと怯えたように肩を跳ねさせた獄の手がドアノブから離れ、バタン!と勢いよく扉が閉まる。オートロックが施錠される音は獄自身の鼓動の音で彼の耳に入らなかった。
「空こ、」
「“Kneel”」
途端、全身に電流が走ったような衝撃が獄を襲う。靴も脱がないまま、コンクリートの土間で折れたように膝をつく。ハッハッと息が荒い。空却は壁から体を離すと、一歩二歩と獄の方へ近づく。空却を見上げる頬を上気させた獄の瞳は、今にも零れそうなほど潤んでいる。
「“Down”」
“伏せ”――コマンドを理解した瞬間、獄は両手をコンクリートの地面にダンっ!と叩きつける。更に膝をついたまま上半身を伏せる。頬をも地につけたその体勢はいわゆる土下座に近い。
「獄。今何時だ?“Say”」
視線のみを動かして、地に着いた手首の腕時計を見る。
「じゅ、19時……じゅういっ、ぷん……」
「獄……テメェ、拙僧におしおきされたくてわざと遅刻したな?」
獄の口から涎が垂れてコンクリートの色を変える。ハッハッと息が切れて荒い呼吸音を隠し切れない。
獄の居場所は、携帯のアプリで常に空却に把握されている。彼は、獄が意味もなくコンビニに寄り、駐車場で時間を潰す一部始終をしっかりと見ていた。
「“Up”」
獄が弾かれたように顔を上げる。獄を見下ろす月の瞳が、この世の冷徹と軽蔑を極めたような輝きを以て彼を見下ろしていた。獄の口端から涎が垂れて、目にハートが浮かぶ。
「くう、こ」
「“Shash(黙れ)”」
あ、と思わず小さく喘ぐ。
空却は四つん這いの獄に背中を向けると、顎をしゃくる。
「“Craul(這え)”。ついてこい。おしおきしてやる」
***
四つん這いの獄を先導する空却はベッドルームに入った。二人が普段プレイを楽しむ場所である。自然と期待で床を這う獄の息が上がる。
「“Stop”」
クイーンサイズのベッドの傍で獄が止まる。空却はベッドに腰掛けると、女王然として脚を組み、頬杖をつく。その一連の動作を、獄は四つん這いのまま陶然と見上げていた。
「“Strip”。上だけな」
「………」
しかしうっとりとする獄の耳には届かない。空却が舌打ちする。
「“Strip”!!二度言わせんな!」
「っ!!」
ハッとした獄は慌ててライダースに手をかける。むしり取るように脱ぎ捨て、床に放ると、ガクガク震える手でもたつきながらネクタイを外してシャツを脱ぎ捨てた。獄手ずからクリームで保革するライダースも、オーダーメイドのシャツも、床の上でくしゃくしゃになって転がる。しかし獄はそれらに一瞥もくれず再び床に勢いよく両手をつき、四つん這いの体勢をとった。フン、と空却が鼻を鳴らす。
獄は物欲しげな視線を送る。褒めて欲しいのだ。しかし、一度コマンドを聞き逃した罰として空却は無視をした。足を伸ばして、獄の股間を押す。ぐあ、と獄が呻く。焦がれて愛しくてやまないDomからの接触に獄は脳が溶けるような歓喜を覚えた。
「まず、よく我慢したな、二週間」
「あ、ああ……」
言葉は平静であるようだが、褒められた喜びで獄の視界は点滅する。
今回、二人が多忙になるタイミングが重なった。その間のフォローとして、そして誕生日のご褒美も兼ねて空却は獄に貞操帯を着けた。Subとして不安定な獄は実際貞操帯のおかげでこの二週間を乗り越え、この誕生日もプレイに興じることができている。
「勃起したい?」
空却が小首を傾げて問う。獄は唾を飲み込み、コクリと頷く。
「射精したい?」
コクリ。
「ん、外してやろうな」
獄は表情には出さないままやや驚く。戒められたままでプレイを行うと思ったからだ。しかしDomの言うことに逆らうなどできない彼は、空却がベッドから下りるのに合わせて脱がしやすいように上半身を上げた。
空却が獄の前を緩めると、銀色の貞操帯が露わになった。スカジャンのポケットから鍵を取り出し、カチャリを音を立てて解除する。途端、もわぁと熱気と悪臭が広がる。獄のつけられていた貞操帯は排泄は可能だが洗えないタイプだったため、二週間ぶりに解放されるそこは先端のくびれの辺りには白いカスなども目立った。
「くっせ……」
空却の呟きにぴくんと獄のちんぽが反応を示す。血流がそこにめぐる感覚さえも快楽をもたらし、獄はぐう……と呻く。そのままどくどくとちんぽは漲り、触れてもいないのにあっという間に上を向いた。獄の息が上がる。さあ、この滾った性器がどういじめられるのか、罰せられるのか……唇で、指で、しかしできればあの足で……
「もっかい前閉じな」
「え、」
しかし、空却の口から飛び出たのは予想だにしなかった命令だった。獄は戸惑いながらも、逆らうという選択肢が無い彼は上向いたちんぽを下着に押し込み、いきりたつそれに苦労しながらスキニーパンツの前を閉じる。なかなか上がらないジッパーに焦りながらなんとかそれをジィっと上げ切る。こんもりと前が膨らんだ状態のパンツを見て、空却は満足げに口角を持ち上げると再びベッドに腰を下ろした。
「遅刻した罰だ。そのまま手を使わずイけ」
獄が目を見開く。命令とお仕置きが下った悦びに歯がカチカチとなる。だが困惑もある。
「ど、どうやって……」
「自分で考えろ」
唇を噛む。目の前には床。……なにをしろ、と言われているか理解はできる。だが、プライドがそれを認めることを許さない。一方でSubの本能が従えとこめかみで唸る。
理性と本能、これだ。獄は熱い息をほうとつく。これが獄のいちばん好きな、愛してやまない葛藤だ。
震える手で床に両手をつく。そして脚を伸ばし、腰の部分を床につけて前の膨らみを地面に押し付ける。しかし、下着プラスパンツの生地が二枚間に挟まれているため快楽はおろか触れているという感触さえその程度ではなかなか拾えない。ぐう、と腰を更に押し付け、ようやく鈍い快楽を拾う。
「っ……♡」
ごし、ごし、と腰を振って床に膨らみを押し付ける。ぎっしり詰まった肉と硬い床をすり合わせてイくためになんとか快楽を拾おうとする。布二枚挟んだ鈍い快楽がもどかしく、獄は狂いそうになっていた。快楽が蓄積するにつて、腰の動きがだんだんと大胆なものになり、床につく腕には血管が浮かんでいる。
「っぐ、っあ……、ぐ」
足が段々と開いていく。裏筋の辺りが気持ちよく、小刻みにそこに押し付ける動きばかりしていると快楽が鈍くなってくる。また一点の好いところを求めて、腰を振って全体を床に擦り付ける。ごしごし、カクカク。床に涎が垂れて、息は犬のように荒い。
ぱんぱんに膨らみぎっしり詰まった肉をうまいことジッパーの裏側とこすりつければいい快楽が拾えると気付いてからは、その動きを利用した。上下するだけでなく、字を書くようにくねくねと腰を振る。もどかしい刺激は快楽を追うことで頭をいっぱいにさせ、最早獄に恥の概念は消え去っていた。あらゆる動きでひたすら快楽のみを求めて腰を振る。
やがて勃起しきったちんぽはスキニーパンツのフロント部分に収まらず、右上に向けて大きくその身を膨らましていく。獄は身体を傾けて、右側に寄ったちんぽをごしごしごしと床にこすり付ける。
「“Good boy"。……ひとや、えらいな」
突如下された褒めの言葉に、獄はハッとして上を向く。ああ、ずっと見られていたのだと理解した途端、眉を下げて口端から涎を垂らす。嬉しい、と喜びに浸っている間も、快楽に支配された体は腰を止めない。ごしごしごし!カクカクカク!
そんな獄に空却はひどく優しい微笑みを浮かべ、右足を軽く持ち上げた。獄が腰を止めないまま頭に?を浮かべる。
「足、つかわせてやる」
「……!」
思わず、獄は前のめりになる。
よろけながら床を這い、無我夢中で空却の脚に抱きつく。サルエルパンツからはみ出た真っ白な脚、もうそれしか考えられない。両手で右脚の膝裏に腕を回して抱きしめ、足首にギッシリパンツに詰まったちんぽを押し付ける。
「っが、っぐ、あああ♡」
カクカクカク!♡とちんぽを空却の脚に押し付けて腰を振る。足首の筋っぽいところが特に気持ち良くて、そこを狙って重点的に腰を押し付ける。床よりも面積が狭く快楽を拾いにくいはずの足が、気持ち良くてたまらない。口端から涎を垂らし、顎を反らしてカクカクカク!ごしごしごし!と腰を振る。その様といえばまるで発情期にさしかかり飼い主の脚に抱き着く犬のようだ。
「イくっ、イきそっ……♡!」
その宣言を聞いた空却は、獄がちんぽを押し付けていない方の脚を折り、獄の前に裸足の足を差し出した。すかさず獄がむしゃぶりつく。空却の脚を抱きしめ、腰を振ったまま鼻息荒く足にむしゃぶりつく獄の姿が心底愛おしいというように空却は笑みを浮かべる。コマンドを発す前にむしゃぶりついたことも不問にしてしまうほどのかわいさであった。
「じゅぱっ、ちゅ……イく、出る出る出る出るっ……!!ぐ、あ゛っ……!」
獄の腰が壁に当たったように止まり、びくん!びくん!と跳ねる。じんわりと狭い中で暖かいものが広がる本来不愉快なはずの感触すらも快楽をもたらす。二週間ぶりの黄ばんだ糸引きザーメンが下着の中でじわじわと広がり、パンツの色までも変えた。眉を下げ、口をだらしなく開けたままはぁはぁと荒い息をつく。空却の足にもたれかかりながらカク…カク……と残滓を出し切るために控えめに腰を振る動きを自制できない。
そんな獄の顎が白い指先でツイ、と上げられる。自然と交差した視線に射精の余韻に浸る獄は肩を跳ねさせて歯を食いしばる。堂々とした月の瞳に射抜かれた衝撃で、パンツの中で力なくした性器がまだとろぉと白いそれを吐き出す。
「よく射精できたな。えらい、えらい」
「空却……」
「ん。気持ち悪いだろ?下脱いでいいぜ」
「コマンドがいい……」
「“Strip”」
ふら、ふらと空却の足から立ち上がり、獄は力の入らない腕でベルトを抜き去りズボンをパンツごと下げる。にちゃあ、と性器と下着の間に白い線が繋がりすぐ途切れた。ぐちゃぐちゃのズボンを幼子がするように蹴ってどこかへやり、ついでにさっきまで履いたままだった靴も脱いで蹴る。ごろん、と上等な革靴が無造作に床の上でひっくり返る。
「獄、おいで」
全裸になった獄を空却が手のひらを上にして呼び寄せる。ん……と淡く返事をした獄は空却の足元に座り込み、空却の膝に顎を置く。その頭をなでてやると獄は気持ちよさそうに目を細める。しかしイマイチ表情が無い。Subスペースか?と空却は注意深く観察しながら、頑張った獄の頭を何度も撫でてやる。
今日はプレイはここまでにして、セックスにしようか。そう空却は考えていた。しかし、とろりと蕩ける獄の唇が躊躇するように何度も開閉しながら、ようやくようやく紡いだ言葉に空却は呆気にとられることになる。
「もう……おしおき、おわりか……?」
申し訳なさそうに、そして隠し切れない期待を孕んだシルバーの瞳にそう見上げられ空却は言葉を失う。そしてじわじわとこみ上げる愛おしさ、もどかしさ。思わずニヤける口元を隠すために手で顔の下半分を覆う。獄は不思議そうにそんな空却を見上げている。
「おしおき、されてぇの?」
「ん……」
獄がこくりと頷く。空却はぞくぞくと背筋にほの暗い悦びが駆け上がるのが分かった。
「ん。じゃあ……拙僧のおまんこみながらニセモノまんこずぼずぼするのはどうだ?ほんものまんこが折角あるのに、にせものまんこしか使えねぇの……♡」
コクコクコクッ!と目を輝かせて獄が何度も頷く。空却がニィッと口角を持ち上げる。
「ん、じゃあベッド上がっていいぜ……準備するからちょっと待ってろよ」
言われて獄は立ち上がり、今日初めて己のベッドに上る。空却はベッドの上を移動し、サイドテーブルの引き出しを引いた。この中には二人がプレイを楽しむための道具が山のように入っているのだ。がさがさと雑多にものが詰められたそれのなかを手でかき回し、お目当てのものを引きずり出す。赤く透明なフィルムで包まれたそれは、デザインもスタイリッシュで一見用途が分からない。ましてなにも知らない人間なら夜のおもちゃだとは思うまい。しかし、立派な“にせものまんこ”である。空却はフィルムをビリビリと手で破ると、それを手に持ったままころんと仰向けになった。
「拙僧の唾も入れといたろうな」
挿入する側を上にして、垂らした舌からつつ…と唾液を流し込む。手でぐちゃぐちゃとかき混ぜたら、今度は舌を直接突っ込んでぐちゅぐちゅとかき混ぜる。舌を引き抜くと、にせものまんこと赤くなった舌が粘度の高い液体の線で繋がる。空却は舌なめずりするようにしてその線を切った。そして腹の上にそれを置く。そして最低限のことができるように下着ごとサルエルパンツを下ろし、ベッド下に放る。
「はい……ってひとや、ちんぽバキバキじゃねぇか♡」
その間待たされていた獄の股間のものはすっかり漲っていた。血管をバキバキに浮きだたせ、きんたまもまとめてぐうと上を向き腹を叩かんばかりである。当然獄の息も荒い。顔を真っ赤にして、ハッハッと血走った目で空却を見下ろしている。
「ほら、おいで……“come”、ひとや♡」
両手で尻たぶを引っ張り、穴をくぱぁ♡と広げて獄を誘う。
勢いよく獄が空却の頭の両側に手をつく。血走った目で見るのはふっくらとして縦に割れたおまんこだ。片手で根元を支えてぶっくりと膨れた先端をちゅ、ちゅ、と何度か口付けするようにあてる。挿れたい挿れたい……!歯を食いしばりながらちんぽをほんものまんこからずらし、空却の両手で押さえつけられているにせものまんこに代わりに先端を突きつけ、ずにゅう〜〜〜〜♡♡と挿入する。
「っあ……っ!♡」
根元まで押し込んだ辺りで、ぬとぬとつぶつぶのそれにちんぽを圧迫された獄が快楽に耐え切れず腰を折る。なんとかピストン運動を始めようと腰を引くと、ぬるぬるのつぶつぶににゅるるう〜〜〜〜♡とちんぽを扱かれてしまい、口から勝手に声が漏れる。
「あはっ♡ひとやぁ、まんこ間違えてんぜ♡そっちはにせものまんこ……あれぇ?でもひとや、にせものまんこでも気持ちよさそう〜〜……♡」
空却は尻たぶを引っ張って獄にひくつく肉縁を見せつける。圧迫感も、暖かさも、つぶつぶもぬるぬるもほんものまんこには劣るにせものまんこ。鼓動に合わせてきゅん、きゅん、と中が締まることもないし、上へ上へと絞り上げようとする圧迫感もない。分かっているのに、二週間戒められていた獄のちんぽはにせものまんこの内壁によろこんでしまう。
空却が見せつけるほんものまんこの入り口を血走った目で見つめながら、抜いた腰をたん!とにせものまんこへ叩きつける。おっと、と言葉を漏らした空却が尻から手を離して慌ててにせものまんこを両手で支える。
「ひとやぁ、にせものまんこでもよさそうだな……♡」
その言葉に鼻息荒くちんぽをにせものまんこで扱いていた獄が、ブンブンっ!と首を振る。
「ふ〜ん……でもにせものまんこで腰へこへこ振っちゃってさぁ、これ浮気だぜ?」
ぐしゃり、と獄の顔が歪む。突き入れていた腰の動きがやや緩やかになる。
「あ……腰の動き止めんなよ?“動け”」
命令。獄はハッとして腰を振る。ぐちょ、ぐちょ!と空却の唾液を含む粘度の高い液体で満たされた筒が、ちんぽを押し入れられるたびにいやらしい音をたてる。己と性交する時のそれと変わらぬ勢いで腰を振る獄を見上げ、空却はくすくす笑う。
「拙僧のまんこが好きなら、間違ってもびゅ〜〜♡すんなよ♡な、我慢できるよな、獄ぁ…?」
獄はまた泣きそうに顔を歪ませる。しかし命令がある以上、腰の動きを止めるわけにはいかない。突き入れ、引き抜く度につぶつぶにちんぽ全体を逆なでされ、そろそろ限界が近い。出したい、でも出したらだめ。本能と理性。プレイの極地。獄は苦しいのに脳みそが喜んで鼻から変な汁が出そうになる。
「がんばれっがんばれっ♡ほら、あと二十回我慢できたらごほうびな♡」
二十回、二十回。獄はシーツをぎゅっと掴み、尻をくんっと反らして最後の気合を入れにかかる。噛み締めた歯がギリギリと音が出そうな獄対して、カウントする空却の声は軽やかだ。
「いーち♡にー♡さーん♡よん♡ごー♡ろーく♡しーち♡はーち♡」
獄の体が段々と前のめりになる。イきたい、イってはいけない。目がひっくり返りそうだ。
「じゅういち♡じゅうに♡」
「っぐぅぅ〜〜〜〜……ッッ!!」
びゅ〜〜〜〜〜〜〜♡♡♡
「あーあ……♡」
唸り、腰を震わせながらがくんと崩れ落ちた獄に空却がいかにも落胆した、という声を上げる。腰砕け状態の獄はハッハッと息をして、下の空却を押しつぶしてしまわないようシーツについた肘でかろうじて体を支えているので精いっぱいだ。にせものまんこに突っ込んだちんこはびゅ♡びゅびゅ♡と濃度の高いちんぽみるくを出し切ってから急速に萎えていき、ぽろんとにせものまんこからこぼれる。
「にせものまんこに射精しちゃった……獄ぁ、浮気だぜこれ」
「ぐ、う」
「浮気されて悲しいわ♡」
さて、これを理由に次のおしおきを……と上機嫌に空却が考えていると、ぽたぽたと顔にあたたかい雫が落ちてくる。汗か?と上向いた空却は、ぎょっと目を見開いた。
「浮気、しちまった……!」
ぽろぽろ。獄が涙を流している。
やばい。
空却はTENGAを放り投げて慌てて体を起こすと、獄の顔を胸に抱き込むように抱きしめる。
「ひとや、ごめん、ごめんな。浮気じゃねぇよ、大丈夫だ」
「ひくっ、ひくっ……!」
しゃくりを上げて泣く獄の頭をよしよしと撫でながら、やらかしたなと空却は内心で猛省した。獄はとくにプレイ中などはまるで反抗心をもたないSubだ。空却の言った言葉に反感など抱けるはずもなかったのだ。浮気、といわれたから素直に自分を責め立てた。言葉責めはときに最高のスパイスとなり得るが、今回だけはミスだったと空却は反省する。
「お前がっ……お前が好きだがや、空却っ……誰より……」
「うん、うん……悪かった、獄」
「イっちまったけど……嫌いにならないでくれ……」
「なるわけないだろ……」
ズズッ、と獄が鼻をすする。空却は片手で獄の頭を撫でながら、もう片方の手を下にむけてするりと伸ばす。指先で触れた獄の萎えたちんぽを指先でくすぐる。
「っあ……!」
獄が鼻の詰まった声で喘ぐ。ちんぽを掴み手のひらで扱くと、むくむくと膨らみ始める。その素直さをいい子いい子と褒めて、ちんぽを扱く手を早くする。くちゅくちゅくちゅ♡粘液と先走りがまじりあいちんぽがねっとりとした淫液をまとう。
「っあ、ん、きもち、くうこう、」
「よしよし……」
獄の頭を抱きしめたまま、体を後ろに倒す。ぐいっと尻たぶを掴んで引っ張り、しずまったおまんこの入り口を獄に見せつける。
「ほら、ほんものまんこでいちゃらぶえっちしよ……♡」
「……す、る……!」
獄は腕をついて体を起こすと、腰をぐん、と前に突き上げた。焦るあまりちんぽを支えるのを忘れてしまい、入り口でつるんとちんぽの先っぽがすれる。空却はそんな獄をかわいいなあと笑って、腕を下に伸ばして変わりにちんぽを支えてやる。
獄が再度腰を前に突き出す。カリが肉の輪をくぐり、ずにゅうう〜〜〜〜♡♡と肉を割って内壁をこすりあげながら挿入される。浅瀬のしこりをごりごりごり♡と肉茎ですりあげられ空却が思わず顎を反らす。それでも唇を噛んで獄を見上げ、顔を両手で挟んでやる。
「ほんものまんこ、きもちいい……?♡」
コクコクコクっ!!獄が何度も何度も頷く。
「よかった、いっぱいちんちん気持ちよくな……んあああっ!!♡♡」
空却が言い終わる前に猛烈なピストンが始まる。内壁をまとめてこそぎ落とすような勢いで引き、いきなり最奥をぐちゅん!と突かれる。とんとんとんっ……と敏感な最奥をぶりんぶりんの先端で小刻みにノックされ、空却は叫ぶように喘ぐ。かろうじて芯が通ったちんぽは上下にびたびたと揺れ、そのたびにぴゅっぴゅっと精液かなにかも分からない液体をまき散らしている。
一方、あたたかいおまんこに絞られる獄は、先ほどのにせものまんこの反動もあって早々に限界が近かった。ふうっ、ふうっ、と息をつきながら全力で腰を振るが、正直なところもうびゅうびゅうと出てしまいそうである。
「くこ、もう出そっ……!」
それは普段の獄では考えられないくらい早い射精であった。獄は許しを請う意味でも射精宣言を口にしたが、空却はまるでうっとりとした聖母のような笑みを浮かべてこくりと頷く。
「いいよっ……♡」
その言葉に、これ以上ないというくらい育ったと思われていたちんぽがまたぐん!と漲る。
とちゅとちゅとちゅっ、と奥の行き止まりをつつくと、その度に肉の内壁がきゅんきゅんきゅんっと亀頭を絞り上げる。それが気持ち良くてたまらず、獄のピストンは最奥を狙うものになっていく。ふっふっふっ、と息をついて腰を振りたくる。
「くこっ……コマンドくれ……!コマンドでイきたい……っ!!」
「あっあっ♡んあっ♡んんっ♡ひとやぁっ♡♡」
空却が獄に向けて手を伸ばす。獄はしっかりとその手を掴み、指を絡ませて握る。にへらぁ、と空却が笑みを作る。獄の意識が一瞬白む。
「"cum"っ……♡」
「っ〜〜!!♡♡」
がぽっ!!ちんぽの先端が奥の行き止まりを超え、はまった。
「っやあああああ……っ!♡♡」
びゅ〜〜〜♡びゅるる〜〜〜〜♡♡と奥の奥でおちんぽみるくが噴き出す。三度目と思えないほど重たく濃厚なそれで腹の最奥を余すことなく穢され、空却は前からぷしゃあああと潮を吹いて絶頂した。
「ひっ……♡んっ、ひ…♡」
「はぁ、はぁ」
びゅる、びゅる、とちんぽの先端から残滓が絞り出されやわく内壁に噴きかけられる刺激にさえも空却は喘ぐ。軽く腰を振って全て出し切った獄は、空却を抱きしめ、じっ……♡とその顔を見つめている。余韻に喘ぎながらも獄の意図を理解した空却は、絶頂により頬を真っ赤に染めながら口角を持ち上げた。
「”kiss"……」
「ん……」
***
「マジで俺のDomさま最高〜〜……」
「どーもどーも」
ベッドの上で空却に膝枕される獄は、「まじで最高」とつけたす。空却は獄の髪をとかしてやりながら「どーも」と返す。
獄は被虐属性が強いSubだ。くわえて隷属欲求も強い。しかし、外ではなにかとDomのような振る舞いを行わなければいけないことが多く、普通のSubよりも非常にストレスがたまりやすいという珍しい性質をもつ。その鬱憤を晴らすためにも、必然的に空却と獄のプレイは過激になりやすい。獄の強い欲求に応えられて且つストレスを発散させることができるのが、またDomとしての才能に恵まれた空却であった。獄はこれまで何人かのDomと付き合ったりプロのDomとプレイした経験があるが、彼ら彼女らは獄の欲求を満たすに至らなかったのだ。
「職場の新人も、俺のことDomだと思ってるんだろうな……」
「本気か?こんなかわいいSubを?」
「かわいいって……」
頬を染めた獄が目をそらす。そんなパートナーが可愛くてたまらず、空却はうりうりと頭を撫でる。プレイ後のフォローではいつも特に念入りに獄を甘やかさなければいけないのだ。
「なあ、獄」
「ん?」
「いきなりだが、拙僧から誕生日プレゼントがある」
「え」
「いらなかったら受け取らんでもいい」
獄が呆気にとられている間に、空却はシンプルなデザインの箱を取り出した。手のひらほどのそれはプレゼント包装もされていない、シックでシンプルなデザインだ。「え」と獄がまた声を漏らす。たしかに今日は獄の誕生日である。しかしプレゼントならさっきのプレイ内容で十分だし、てっきりそうだと思っていた。しかも十六も年下の空却相手からそんなプレゼントなんて。更に箱の側面に小さく印字されたブランドに獄は見覚えがあった。
「おま、これ、高いやつじゃねぇか!」
「おう。開けてくれ」
「ええ……」
空却に膝枕されたまま箱を受け取り、かぽりと中身を開ける。
獄は目を見開いた。
「これ……」
「うん。いらなかったら返してくれ」
正式にパートナー契約したDomがSubに贈るアイテム、チョーカー(首輪)。紫がかった赤色のそれが箱の中で静かに横になっていた。
信頼するパートナーがいる証。そして、Subであることの証――。空却が何度も「いらなかったら返せ」と言う意味が獄の中で納得がいった。プライドの高い彼が、一般的に蔑ろにされやすいSubの証を身に着けて生活することが考えにくかったのだろう。
獄は腹に力を込めて起き上がる。そして――箱を空却へ突き出す。
「……獄、そうだよな、いらねぇよな。悪」
「つけてくれ」
空却が顔を上げる。
「つけてくれよ、俺のDom」
獄が微笑む。空却は「いいのか?」と思わず聞き返す。
「いいに決まってる」
空却は箱からチョーカーを取り出すと、両側を持って後ろを向いた獄の後ろに立った。白いうなじに引き寄せられるがままにチュッとキスを落としてから、チョーカーを前に回す。かちり、しっかりと留め具を止める。
「どうだ?似合ってるか」
獄が空却の方に振り返り、チョーカーをつけた首元を撫でる。己のSubが己が選んだ首輪をつけている姿に、空却の胸は苦しいくらい満たされた。
「似合ってるに決まってんだろ」
***
「所長、そのチョーカーお似合いですね」
「ああ」
所長室に続く扉がバタンと閉まって獄がホールからいなくなる。すかさず獄の後輩弁護士は例の新人受付スタッフのところへすすす…と移動し、耳打ちする。
「なあ、今日の依頼人Domだよな?」
「ええ」
「大丈夫かな……所長、美人だし。しかもあのチョーカー……Subだってすぐばれるだろ」
「ああ、それであの子を呼んであったんですね」
「え?」
「邪魔するぜぇ!!」
入り口の扉が勢いよく開かれ、現れたのは二人とも見覚えのある少年だった。彼はずかずかと二人の隣を大股で通過すると、迷いなく所長室の扉を開けて入っていった。しん、と途端に静寂が訪れる。
「あれって……」
「まあ、大丈夫ですよ」
少年が消えていった扉を見つめ、くすりと彼女は笑みを浮かべる。
「所長のことは、なにがあってもあの子が守ってくれますから」
fin.