その翠は夜にも煌めく





月永レオの瞳には、まるで宝石が宿っているようだ。その色はかつて夜会のエメラルドと言われていたペリドットにそっくりで、時間や場所に問わず揺らがない鮮やかな光は暗闇への恐怖と不安を取り除いてくれると言う。そう、まるで陽の光みたいに。彼自身もさることながら、世界を照らす光のような人だと彼を知っている者ならば大半は思うだろう。
今日も宇宙から授かった色の瞳を爛々とさせて、性別からは想像も付かない華奢な指先から世界の宝を生み出している。身に纏う服が汚れるだろうと、泉が再三注意しても所構わず床に寝転び、細身の両脚を揺らして愉快な歌を紡いでいる彼の傍らは居心地が良い。気付けば窓から差す明かりもなく、室内の人工的な灯りが視界を照らしている。

「ああ、まだまだ溢れてくるぞ…!インスピレーションが止まらない、この奇跡は誰にも生み出せやしない…!」

「……レオさん、もう外が真っ暗ですよ。そろそろ作曲モードから戻ってくれませんか、」

「んあっ、なまえか!なんでお前、此処に居るの?ま〜た仕事してんのかっ」

「私が仕事をしている時に、貴方が手伝うって言ったんです。そしたらまた霊感が降りて来たって…」

ぷくりと、頬を愛らしく膨らませる彼女の姿に暴君である彼も流石に眉を下げて笑い、両掌を合わせて頭を下げた。

「さ、一緒に帰りましょう?」

帰り支度は終わっている、と纏めた荷物を掲げれば、夕陽の色の簡易的にまとめられた髪を揺らしつつ身軽に起き上がる。はっとしながら散らばった紙達を慌ててレオが拾い集めるものだから、小さく息を吐き出し手伝いに応じると紙に記された文字に目が留まる。恐らく曲に付けたであろう題名なのであろうがお世辞にもセンスがあるとは言い難い。彼は天性の作曲の天才ではあるのだが、それに限り作詞など言語を要する事に関しては右腕でもある瀬名に任せきりだ。この点に関しては本人も自覚しているようでたびたび、「言語は不自由だ!」と嘆いているところを見かける。

ふと、頬に押し付けられた指の感触で我に返ると宝石のような瞳が此方の様子を伺っているのに気付く。物思いにふけてしまっていた間に紙は束となったようだった。しばらく二つのエメラルドを見つめ返してから小さく笑みをこぼすと、緑が優しく細められたと同時に少しばかり冷えた手が自分のを包み込む。温もりを分けるように何度か握る力を強めたり緩めたりしてれば顔に影がかかり、これまた冷えた体温が唇に触れては離れていった。

「…あちこち冷たすぎませんか、レオさん」

「えっ、そんなに!?……ごめん、いやだったか?」

「いいえ、嫌じゃないですよ。」

途端、表情を輝かせて嬉しそうに手を握ってきては帰ろうか、と歩みだす。愛らしく眉尻を下げている面持ちを見ているのも良かったのだが、あまり意地悪してると後から瞳が鋭くなりかねない。

夕暮れも通り過ぎて暗くなった空の下をたわいもない事を話しては、お互い何かを口にする事もなく帰路につく。正確にいえばレオがなまえを自宅まで送り届けているのだがこのような事は日課となっていた。家族にはレオの存在がすでに認識されている為、偶に夕飯を食べていかないかと母がお節介を焼こうとするもレオは滅多に頷かない。家に溺愛している妹がおり、帰るのが遅くなる事で寂しがらせたくないのはもちろん、レオが彼女と夕飯を食べたい気持ちもあるのだろう。

「今日も母がうるさくしそうなんですけど、レオさん真っすぐ帰りますよね?」

「あ〜、そうしようとも思ってたんだけどなぁ。今日、ルカたんはお泊りするだとかでいないんだよ。」

「……そっか。」

「今、少し期待しただろ?」

にやり、口角を上げたような声色。図星を突かれたなまえの頬はほんのりと染まり、今の時間帯であれば見えづらかったのだろうが道沿いにあった電灯と姿を捕らえようとするエメラルドの距離で隠すことはできなかった。伏し目がちに楽し気な色をしたエメラルドを見つめ返せば、よいこよいこと髪を撫で回してきて橙色の髪を揺らし、鼻唄を歌いだす。

「なまえはもう少しおれと居たいみたいだし、なまえのお母さんのご飯もうまいし。今日は寄っていく事にするよ。」

世界を照らす陽光は顔を隠して、青空は暗くなった。しかし、そんな空の下でも分かる鮮やかでキラキラとしたペリドットが優しげな色を滲ませてなまえを見つめる。その瞳に吸い込まれそうになりながら、胸を甘く締め付けられる苦しさを甘受して、彼には叶わないのだと幸せを噛みしめる。照れ隠しにと華奢な腕に体当たりするが如く身を寄せたがしっかりと受け止められた。






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当サイトを製作して初めての小説。
ただレオの容姿などを綴ってみたかった。いとおしや。