風邪っぴき黒コスモ先輩 - oa



「コスモ先輩、体調良くないですよね?」

すっかり見慣れた、半分以上を白いマスクに覆われた顔に向かってそう迫ると、コスモ先輩は無防備な瞳でぱちりと瞬きをした。マスクの上から手を当てて欠伸なんかをしてからベンチで横になっていた身体を起こすその動作は、ただ単にかったるいというよりは大儀そうに見えた。

「私の身体は病原菌の侵入を許しませんので、風邪を引くことなんてないですよ。ほら、声もいつも通りでしょう?」
「でも、顔がちょっと赤いです」
「気のせいですよ」

それ以上の追求を振り切るように屋上を出ていこうとする背中を追うと、コスモ先輩は不意にぐらついた。後ろに倒れかけた長身を慌てて受けとめながら、項垂れていつもより近くなった顔を覗き込む。マスクの下の口が開かれることはなくても、長い黒髪の合間からぎろりと睨む目は、面倒だとか鬱陶しいとか、そういう嫌悪感を露にしている。背筋がぞくりと粟立つのを表情には出さないようにして、私に動じる様子がないのを見てコスモ先輩は苛立ちをおさめ嘆息する。

「…ああ、すみません。どうぞお構い無く」
「……いいんですよ、うざったいってはっきり言っても」
「はい?」
「言ってくれていいです。私は、コスモ先輩の素を見せてほしいんです」

素顔も本音も、包み隠されてしまっているものだとわかっているのにこんなにも惹かれてしまうのはどうしてなのか。答えに手を伸ばす私を、深い紫をたたえた瞳が見つめていた。

「触るな」

ぱし、と乾いた音を立ててコスモ先輩の顔に伸ばした手を払われた。叩かれたのではなく軌道をそらすように払っただけで全く痛くはなかったのに、反射的にびくりと身体が揺れてしまって、コスモ先輩が鼻を鳴らしてせせらわらう。

「結局、びびってるくせに。ただの好奇心で近付かれるのはうんざりなんだよ」

好奇心というか、ただ好きなんです。今度こそ振り返らずに立ち去る背中にそうぶつけてしまいたかったけど、言えなかった。突き破りそうなくらいにばくばくと暴れる心臓は、怖かったのか驚いたせいなのか、でもこの高鳴りは間違いなく恋なのだ。