独歩と飼っていた犬が死んだ - hpmi



独歩と飼っていた犬が死んだ。大きな病気をすることもなく老衰で、眠るようにして迎えた最期だった。朝起きたら寝床で冷たくなっていて、私はわんわん泣いて、独歩は隣で静かに大粒の涙と鼻水を流していた。
周囲からはまた新しい子を迎えるといいよなんて言われて、それはあながち無責任な励ましではなかったのだろうけれどやっぱりそんな気にはなれず、ケージやごはん用のボウル、リードやおもちゃも結局全部処分してしまった。部屋の掃除をしても犬の毛が出てこなくなった頃、ああ本当に独歩と二人だけになったんだと自覚した。

「なあ、散歩行かないか」
「……うん、いいよ」

何も予定のない休日。思い付いたように誘ってきた独歩に着いて手ぶらで外に出た。久しぶりに馴染みのルートをのんびりと歩く。風はだいぶ涼しく、日差しは暖かく、胸のすくような青空が広がってすっかり秋めいた気候になっていた。どこからか金木犀が香って、辺りを見回したが出所を見つけられない内に香りは流れていった。

「あ、彼岸花」
「どこ?」
「あそこの、空き地の真ん中らへん。一つだけ咲いてる」
「本当だ。こんな何でもないところにも咲くんだな」
「そうだね…」

寂しそうに揺れる赤を眺めていると、並んで歩く独歩が不意に手を握ってきた。立ち止まりかけた私の手を引いて、ほら行くぞと促すように、ゆっくりした歩調でまた歩きだす。

「年とっても、ときどきこうやって散歩しよう」
「うん」
「二人だけだと、寂しいか?」
「……ううん」

きゅ、と手を握り返して、半歩先を歩いていた独歩に追いついた。独歩は長生きしてね、でも職場変えないと無理かもね、そう言うと乾いた笑いが返ってきた。