勝己と相合い傘 - mha
会社から出ると雨が降っていた。今朝のニュースの予報では降水確率が比較的低かったはずだけど、でもまあ洗濯物は浴室乾燥にかけて来たし鞄の中に折り畳み傘も入れていたので自分の上出来っぷりで気分は上向きだ。
電車の中でカップルの女の子がレインブーツを履いていてるのを見て、一日デートをしていたのかなと思った。最近、デートしてないなあ。梅雨に入ってしまったのでアウトドア系はもってのほかだし、ただ買い物に行くのも何となく気が乗らず、というかそもそも忙しい勝己とは休みが合わず同棲していても顔を合わせない日もしばしばだ。次に休みが合うときはどこか行きたいなと考えながら最寄り駅の改札を出ると、色とりどりの傘が出ていく軒先に不機嫌そうな顔をした勝己がいた。ぽかんとして立ち止まる私の手にある傘を見て、勝己は目を吊り上げる。
「ア!?なんだてめェ傘持ってやがったんか」
「いや、梅雨だし普通に持ち歩いてるけど…」
そんなことよりもしかして迎えに来てくれたの、と言い終わる前に勝己はばつんと大きな傘を開いて回れ右してしまい、慌ててその横に滑り込んだ。
「ま、待ってまって、帰り道一緒でしょ」
「てめェの傘が残ってたからついでとは言えせっかくここまで来てやったのに無駄足だったわ。つか持ってんだろーが入ってくんな」
「持ってるけど折り畳みでちっちゃいんだもん」
「これのがせめェ!!」
大声で文句を言いながらも、持ってきてくれた私の傘は反対の手に握ったままで押し出そうとしてくるようなこともなく、しょうがないとでも言うような舌打ちがひとつ。斜め上を見上げると相変わらず眉間に皺を寄せていたけれど、さっきよりもやわらかい表情に見えるのは贔屓目なのか。
「梅雨開けたら、真夏になる前に山登り行こうか」
「真夏でも行けんだろ」
「私は行けませんー」
雨降りも悪くないな。傘の下でこっそり笑いながら、そう思った。