槙くんを看病したい

秋は足早に過ぎ去って、日が沈むとすっかり冷え込むようになった。そろそろ冬物のコートやマフラーを出さないとなあ、そんなことを考えながら槙くんと帰宅したある夜。今日はシャワーで済ませないで浴槽に熱いお湯を張って温りたい。先にお風呂洗ってきちゃうね、そう言うと珍しく少しぼうっとしていた槙くんがワンテンポ遅れてこう言った。

「なんか、熱い気がする。体温計ってどこにあったっけ」
「えっ、大丈夫?確かそこの引き出しにしまってあったと思うけど……」

槙くんの口調は普段通りだったけれど、色の白い顔には赤みがさしていた。以前、体調が悪いのに全然気付かず倒れる寸前までいったことを考えれば、自主申告できるようになったのは非常に進歩したと言える。ピピッと小さく鳴った体温計を服の中から取り出して、槙くんと一緒に小さな液晶画面に表示された数字を覗きこんだ。

「37.6度、結構あるね。喉が痛いとか咳が出るとか、お腹の調子悪いとかある?」
「いや……なんか身体が熱いなってだけ」
「そっか。とりあえず、食欲ありそうならお粥かうどん準備するよ。横になってて」

相変わらず自覚症状に乏しい様子だったけれど、ひとまず安静にしてもらうのが良いだろう。いつかのように、近くのスーパーで必要そうなものを買い込んで戻ってきた。ベッドに行っていて良かったのに、ソファで横になっていた槙くんは申し訳なさそうに上体を起こした。

「悪い……」
「気にしないで。季節の変わり目だもんね、うちでも風邪っぽい人いるよ」
「あんたにうつしたら悪いから、今日は帰って」

今の槙くんに必要なのは十分な休息。そのために必要な水分や食料は準備したし、私がいたら気をつかってちゃんと休めないだろう。だから今日はこれだけで、おとなしく引き下がるべきだ。そう自分に言い聞かせて頷こうとしたけれど、槙くんは小さく笑って頬を撫でてくれた。

「そんな顔されたら、帰したくなくなるだろ」
「……私、どんな顔してた?」
「傍にいたい、って顔?」

語尾に小さくついたクエスチョンマークに私も苦笑を返して、だってそんなの答え合わせをするまでもない。

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