俺と君は違う
その言葉を何度自分自身に言い聞かせてきた。

「さーとーるーにーちゃーん!!」
「おっ、どうした?」
「せんせいがよんでるよー!」
「りょーかい」

読んでいた本を元の本棚に戻して呼ばれたほうへ足を運ぶ。
この大きな屋敷がこんなに賑やかになったのは彼女がこの世界に屋って来てからだ。
理不尽な死を受けてしまった彼女は懸命に此処で生きている。

「ごめんね読書中だったでしょ?」
「いや大丈夫だけど、それにしても多いな・・」
「あはは、今日は天気が良いからね。絶好の洗濯日和でしょ」

下に降りてみると彼女、名前は真っ白なシーツを抱えながら笑っている。
そんな名前の姿を見て俺は小さく笑ってしまった。

「聡」
「ん、どうした」
「ありがとう」

ふい名前の方へ顔を向けようとしたらその言葉が耳に先に入ってきた。

「え、行き成りどうしたんだよ」
「いや、改まって言うって恥ずかしいけど、こうやってまた家族に会えたことも全部・・聡のお陰だから」
「・・・・・いや、逆に怒ってもらってもいいのに」
「・・私を殺してしまったことを?」
「うん・・」

見れなかった。
名前がどんな顔をしてこちらを見ているのかと思うだけで怖い。
今まで言わなかったけど、名前がこちらの世界にやって来て初めて見た涙を俺は覚えている。
小さく蹲って声を殺しながら泣く彼女の姿が今でも脳裏にこびりついている。

次に喋ったのは名前だった。

「怒らないよ。だって、そう言う運命だと言われたら仕方ないからね」
「・・・・・」
「それに、あの子たちの幸せそうな顔がまた見れたし結果オーライかな」

その口調は学校に通っている時の優等生の声ではない。
もう一つの世界で彼女が生きていた喋り方だった。

「まぁ、あの世界の家族に会えなくなるのは悲しいけど・・でも」

そう言うと名前は俺の手を小さな名前の手で握ってくれた。
それは人間の温かさがある。

「私は今とても幸せよ。家族と暮らせて、あの子たちと再会して、それに・・・聡。貴方に会えたことも私は幸せよ」
「っ・・・名前」
「いつまでもメソメソしないのよ。”さとるおにーちゃん”」

名前は子供たちが俺を呼ぶように幼い呼び方をする。
その顔はどこか悪戯じみた悪餓鬼のような顔をしている彼女を見てそんな顔もできるのかと思ってしまう。

「さーてと、みんなの昼ご飯を作らないと・・行こう」
「・・あぁ」

なぁ、知っているか。
俺の存在を知っているお前にも教えてないことがある。
神様だなんて言うけど顔なんて存在しない。
今の俺の顔は借りているだけだ。

その顔は名前自身がもっとも知っていて知らない顔

「ばっかみたいだな・・」
「え、何か言った?」
「いや、何でもないよ。ただの独り言だよ」

言えないよね。
この顔は君のーーーーーーー


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