高校を卒業した時位だっただろうか。
その時の彼氏の影響でたばこを吸い始めたのは。

親には「女がタバコなんてみっともない」と言われてはいるがやめるつもりは今はない。そこまで依存はしていないし、やめようと思えばやめれると思っているから。

そしてもうひとつやめない理由がある。






「よお、今休憩か?」


そう声をかけてくれたのは土方さんだ。

私が務める会社の広い喫煙所に、少しお疲れ気味の土方さんが現れた。私がたばこをやめない理由はこれだ。別部署に所属している先輩の土方さん。

彼が現れた途端、同じ喫煙所にいた女性社員が色めき出す。

下品に手を叩いて世間話をしていた者は、上品に笑いだし、足を組んでタバコを吸っていた者は姿勢を正す。

容姿端麗、成績優秀、おまけに上司からも好かれ、後輩からも慕われる。彼が女性社員達から好かれる事は目に見えて分かる。


「お疲れ様です。お昼ご飯後の一服中ですよ。土方さんも休憩中ですか?」


「いや、それがまだなんだよ。今から急に取引先に行かねぇといけなくなってな」


ポケットにあるであろうたばこを探りながら、彼は言った。

何故、違う部署の彼が私なんかに声をかけてくれるのかと言うと、各部署から選ばれた社員だけで企画されたプロジェクトで一緒になったから。

あの時は直属の上司にプロジェクトの話しを出され、嫌々ながら引き受けたが、そんな私を神様は見ていたのか、指定された部屋に行くとそのメンバーの中に土方さんの姿があったのだ。

お互いの連絡先は知らないものの、プロジェクトが終わった後も、土方さんは私を見かけると話かけてくれる様になっていた。

勿論、私も土方さんに少しながら好意を抱いていた。少しだけなのは到底、私には彼の隣にいれるような魅力的な女ではない事くらいは自覚しているから。


「大変ですね、お昼ご飯遅くなっちゃいますね」


「だから一服しに来たんだ」と、彼は笑いながら言った。

ポケットに入れた手をごそごそ動かした土方さんは一言「あ、たばこ忘れた」と独り言の様に言った。


「あ、私ので良ければどうぞ」


私は持っていたたばこの箱を開けようとした時、


「いや、これでいい」


そう言った土方さんは私の吸いかけのたばこを取り上げると、そのまま自分の唇にあて吸い出した。

固まる私と固まる女性社員達。

土方さんはなに食わぬでたばこを吸っている。

3回程煙を肺に入れた土方さんは何事もなかったかの様に、まだ十分に吸えるたばこを返してきた。


「サンキューな。じゃ、行ってくる」


そう言うと彼は、片手を上げ私に笑いかけると喫煙所を後にした。

はて、何が起こったのか。これは所謂、間接キスだ。

これを受け取った私は一体どうすればいいのだろう。どんな行動をすれば正解なのか。土方さんは一体何を考えて私の吸いかけのたばこを吸ったのだろうか。

周りにいた女性社員の視線が一斉に集まる。

私はただただ少しずつ灰になっていくたばこを見つめるしかなかった。

土方さん、こんな人が沢山いるなかでこれは公開処刑です。


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