井戸の中からこんにちは





「愛してるんだ、俺と結婚してほしい」


「…嬉しい、ずっとそばにいてね」












「はい、カットー{emj_ip_0792}okでーす、以上でクランクアップです、お疲れでしたー{emj_ip_0792}」


「高杉さん、お疲れ様でしたっ{emj_ip_0792}」


「はいはーい、お疲れさーん」









俺は高杉晋助。モデル業を主に活動している。最近俳優としても動きだした。ま、俺レベルになれば俳優歴が浅くてもすぐ主演の話が来て、その作品は大ヒット。だって、俺だから当たり前だろ。この俺様が出てんだ。結果なんて最初から分かってんだよ。


『高杉晋作さん主演映画が過去最高の興行収入となりました。いやぁ、さすが高杉さん。雑誌の表紙を飾れば即完売。アイスのCMなんかは可愛い過ぎると話題で、どこのコンビニも入荷したらすぐ売り切れですからね。あの胸キュンさせられるCMたまりません。私も結局、アイスは食べれず終いでした。今後も高杉さんの活躍が期待されますね。では、次のニュースで…』


ピッ


事務所のソファに寝転び、テレビを消す。分かってんだよ、んなこたぁ。聞き飽きたっつーの。


コンコン


「晋助、入るわよ」


何も返事をしてないのに入ってくるこのデカ女。デカイ?乳じゃねぇ、身長の話だ。


「足癖悪いわよ、ソファに足なんて乗せないでちょうだい」


そう言って俺の長い足を叩くこいつは…


「うるせぇよ、ヅラ」


「ヅラじゃないわ、今はヅラ子よ。もうバベルの塔も取ったし、完全な女性なの。もうその名前で呼ばないでよね」


これで分かったと思うがこいつは元男だ。小さい時からの付き合いで、俺の腹黒さを知ってるのもこいつだけ。中学の時に女になりたいとカミングアウトされ、数年前にホントにチン◯を取りやがった。恋愛対象は男。ちなみに俺は対象外との事。願ったり叶ったりだ。ついでに言うと俺を始めとする今いろんなジャンルで活躍しているアイドルや俳優の所属している事務所ジャスタウェイの社長だ。


「へいへい、分かったよ。で、何の用だよ」


起き上がってミネラルウォーターを飲む。常温へと変わっていたその水の緩さに軽く目眩がした。


「何の用?じゃないわよ。あんたのその性格のおかげで何回もマネージャーが辞めるもんだから新しいマネージャーを探して連れてきたんじゃない」


あー、そうだった。まったく女つっーのは面倒くせぇ生き物だ。勝手に俺のイメージを作り上げてるクセにちょっとでも暴言を吐けばピーピー泣きやがる。俺のマネージャーになんならメンタルが強ぇ奴じゃねぇと務まんねぇよ。


「あー、だった。」


「だった。ってあんた忘れてんじゃないわよ。ほら入って?紹介するわ」


そう言ってヅラ子がこの部屋に招き入れた奴は…


「初めまして、あなたのみょうじあなたのなまえです」


「…おい。俺はメンタルの強い奴を希望って言ったぞ?誰が貞子みてぇな奴を連れて来いっつたよ{emj_ip_0792}」


この部屋にスッと入って来た女は牛乳瓶の底の様な分厚い眼鏡をかけ、髪は真っ黒でただ伸びきっている幽霊の様な女だった。




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