3分の2は、




「あぁ〜ん、もう久しぶりぃ〜!元気してた?私は元気よ!今日の為に朝からタフマン飲んできたの。しかも3本!」


「飲み過ぎだろ、カマ野郎。何、気合い入れてんだよ、気持ち悪ぃな」


「あぁ〜ん、もっと言ってぇー!」


…まったく乗り気しねぇ。今日はとうとうあの雑誌の特集の撮影日だ。場所は都内の某有名ホテルのスイート。別室でヘアメイクをして、撮影部屋へ向かうと見事なまでのベッドが用意してあった。ヅラからは「需要があるうちに脱げ」と言われているから、もう腹をくくるしかない。幸い、今回は相手のモデルは無しらしい。ヅラはそこだけは考慮してくれた様だ。なんかこう、そこだけは俺のポリシーに反するっつーか、譲れないっつーか。ヅラもどうやらそれは覚えていたらしい。


「じゃ、そこのベッドに横になって、隣に寝ている女性に微笑んでいる顔を頂戴」


相手は居ないが、そこにいるという設定で撮影をしていく。聞き慣れたカメラのシャッター音とあのカマ野郎の声だけが部屋に響いた。様々なリクエストに応えて、顔と仕草、表情を変えていく。

ふと、現場にいる周りの奴らを見回すと女性が圧倒的に多かった。全ての女性達のキラキラした目線を感じる。…一人を除いては。スタジオの隅の方で撮影を見ていたあなたのなまえが自分の指先ばかりを見ている。


「(もしかして周りの子達に影響されたか?)」


今現場にいる女性のほとんどがネイルをしている。さすがにその指先を見て、何もしていない事が恥ずかしくなったのか。と俺は思った。…だがそれは違った。あなたのなまえが気にしていたのは、


「(さかむけかよ!!こんな場所でもさかむけが気になっちゃう!?どんだけタチ悪いさかむけかよ。分かるよ、酷いやつは肉までめくれて血が出るけど、今剥く!?)」


どうやら俺のとんだ勘違いだったみたいだ。まさにタチの悪いヤツだったんだろう、あなたのなまえは絆創膏を貼り出した。


「はぁ〜い、ちょっとカメラチェックするわね〜ん」


その声がスタジオに響き、あなたのなまえが「お疲れ様です」とミネラルウオーターを持って来た。ふとその指先を見ると痛々しいさかむけが他にもあった。


「さかむけが出来る奴は親不孝もんだって聞いたことあるぞ」


「何ですか、急に。すでに私が親不孝者だっていうのはご存知でしょう」


「だったな」


そんな会話をしていると、「メイクなおします」と、メイクさんが入ってきた。髪もセットしなおして、撮影にはいるが、いまいちショットに納得がいっていないのかカマ野郎の顔がパッとしない様に見えた。


「う〜ん、被写体は完璧なんだけど〜、この手の撮影はありふれているから、同じ様にしか見えないのよね〜」


と悩み出した。確かにこういうタイプはエロスを意識しているだけに皆んな同じ様な感じになる。故にどれだけ話題性のあるショットを載せるかが大事なのだが、それにカマ野郎が悩んでいるようだ。

すると、その様子を見ていたあなたのなまえが、てくてくとカマ野郎に近付き、なにやら話しかけている。この距離ではその会話は俺の耳には届かない。身振り手振りで何かを話している2人。すると、


「イェーイ!!」


と2人は声を揃え、ハイタッチをした。

え?一体今、何が決まったの?







ALICE+