真夜中の結論




あれから全ての仕事を終えた午前2時。
貞子が運転する車に乗り込み、自宅の高級マンションへと帰る。こいつ免許は持ってんだな。


…つーか、ぜんっぜん会話無いんですけど{emj_ip_0793}あ、あれか{emj_ip_0792}俺が相手だから緊張してんのか。しゃーねぇな、俺から話題振ってやるか。


「貞子よぉ、お前見た目どーにかしろよ。そんなんじゃ全然、男っつーか人間も寄りつかねぇぞ」


ヅラの野郎が綺麗にしてやれって言ってたしな。そういうのは遠回しじゃなくてストレートに言ってやった方がいいに決まってる。


「…」


「…」


「おい何か言えや{emj_ip_0792}独り言じゃねぇんだよ{emj_ip_0792}」


聞こえてただろ、絶対{emj_ip_0792}「何とか言えよ」と付け加えたら、蚊の泣く様な声が聞こえた。耳を澄まさないと聞き取れないレベルだ。


「…見た目を変えても私にメリットなんてないので」


こいつ超ひねくれてんなぁ。会話が続きそうに無いので、「あっそ」と言って終わらせてやった。


「…」


「…」


「…」


「つーか、お前ん家どこらへん?」


静かになった空間の中で俺はいつの間にか自分から話しかけていた。もう午前2時20分だ。俺をマンションまで送って、貞子が自分の家に帰りつくのは何時なんだろうか。すると貞子は、


「事務所から高杉さんのマンションの中間くらいにあります。通ってみましょうか?」


と珍しく会話が成り立った。「おぅ、寄ってみろよ」と返事した3分後。「ここです」といってハザードランプを付けて指を指された建物は、


「何このおんぼろアパート」


「私の自宅です」


これが?え、これ人間住めんの?

今にも崩れそうな外壁、ところどころ穴の空いている階段、終いにゃ蓋さえも存在しないポスト。こんな所に住んでんのかよ。


「…ここセキュリティってどーなってんの?」


「…?ありますよ?」


そう言って貞子が自分のバックから一つの鍵を俺に見せてきた。


「…それは?」


「鍵です」


「見りゃ分かるわ{emj_ip_0792}…もしかしてセキュリティってそれの事じゃねぇよな?」


今のご時世、声やら指紋やら顔で認証は当たり前この時代だぞ。まさかこんな鍵一つに頼ってんのか{emj_ip_0793}


「そうですよ。立派なセキュリティです」


「…ま、まぁ、いいんじゃね?お前みてーな女を襲う変人もそうそういねーだろ」


その一言に貞子からの返事は無かった。しばらくするとマンションに付いた。「お疲れ様でした。明日は8時にお迎えに上がります」と告げられ、俺は車を降りた。自宅に戻りシャワーを浴びる。そこで俺は考えた。ヅラの力では外見を変える事は出来ねぇ。かと言って簡単に変わるくらいなら苦労はしない。つー事は中身に何か問題があるんだろうな。いいんだよ、別に俺は。思えば俺が暴言言って泣かなかった女は貞子が初めてかもしんねぇ。ま、俺としては気使わなくて済むし。


俺はあの時そんな事くらいにしか思っていなかった。

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