何なんだよ、これは。
幼馴染がテレビのワイドショーを見ながら俺の部屋のティッシュを大量に使い、涙と鼻水を拭いている。そんなに使うなら持参して来いよ。
こいつは俺が泣かせたワケでもないし、彼氏に振られたワケでもない。
いや、後者の方が近いか。
「うわーん!ケイトが出来ちゃった婚なんて嫌だぁぁぁぁぁ!」
今日日曜だぜ?起きた瞬間から一日中ゲームするつもりだったのに、何でテレビ占領されてんだよ。つーか、
「お前何でここにいんの?」
ベッドの上で呆れ顔で見ている俺に、お前はぐしゃぐしゃになった顔を向けた。
「だってー!ケイトが出来ちゃった婚だよ!あり得ないー!」
理由になってねーよ。つけられたテレビの画面にはたくさんのカメラを向けられ幸せそうに笑う韓国人が映っている。みんなもうお気付きだろう。そう、この涙で汚れたこの女はこのテレビに映っているアイドルグループのケイトと言う男の大ファンだ。アシンメトリーの前髪が若干左目にかかっている。うざい前髪。切っちまえばいいのに。
「ヤる事ヤったんだから子が出来たんじゃねーか。ケイトも健全な男って事だよ」
「生々しい事言わないで、ケイトには性欲とかそんな物ないの!王子様なの!!」
バカにしたワケでもないのに勝手に炎上しだした。
「王子でも屁もするし、トイレにだって行くぞ」
「ケイトはそんな事しませんー。オナラなんてしないし。してもフローラルな香りでーす」
「屁こいてんじゃねーか」
「トイレだってしませんー」
「んな人間死ぬぞ」
「してもイチゴしか出てきませんー」
「するのは認めてんじゃねーか」
…もう高2だぞ、俺たち。こいつはいつまでケイトワールドにいるんだか。
起きたてで出来た寝癖をテキトーに整えた時だった。
「ああああああああ!!!」
いきなり大声をあげ、俺の居るベッドへとやってくる。
「な、なんだよ」
じっと俺の顔を見たあとに、自分のバッグを漁り出し、「あった!」とワックスを片手に再びベッドへ戻ってくる。
「じっとしてて」
ワックスを手に取り、俺の髪を勝手にセットし始めた。
「おい、勝手な事すんなよ。俺は今日外に出るつもりねーんだよ」
そんな俺の言葉に耳を傾ける事もなく、黙々とセットし続ける。何を言ってもダメだと悟った俺はただただされるがまま状態。
「あっ、やっぱり!!」
「見て」と、渡された鏡を見るとあのケイトとまったく同じ髪型にさせられている俺。
「イイ!イイよ、晋助!!」
急にキラキラした目で俺を見た。「おい、ふざけんなよ」そう言った俺の声はやっぱり届いていない。
「晋助、誰かに似てると思ったらケイトに似てたんだー!あー、なんか急に晋助ごときにドキドキして来ちゃった」
「ごとき≠チて何だよ、俺結構モテるんですけど?」
一人でキャッキャ言って、終いには写メを撮りだした。
言うか?今、言うべきか?
こんなチャンスなかなかねーぞ。
俺は一人でテンションの上がっているこいつの手首をそっと掴んだ。
「な、なに?晋助どーしたの?」
「俺がもっとドキドキさせてやろーか?」
目を見開き、キョトンとした顔で固まった。これは効いたはずっ!!
「晋助…もしかして…
ケイト達の新曲聴いてくれたのっ!?」
ん?あ、え?新曲?
「あ、ちょっと待ってね」
あっけに取られる俺をよそにスマホをいじり出し、ユーチューブを流した。恐らく流れているメロディはその新曲とやらだろう。
「次、次よ!」
そう言ってスマホの画面を見せられた。そこには今の俺と全く同じ髪型をしたケイトが映っていて、ストーリー仕立てのMVの中でケイトは女の子の手を取り、
俺がもっとドキドキさせてやろうか?
さっきの俺と同じ台詞をいうケイトが居た。
「これと同じ真似をしてくれたんだよね、晋助?」
「お、おう…」
とんだミラクルだ。一回もそんなMV見た事ねーし、曲も聞いたことないわ。言う事が同じだなんてやっぱり俺とケイトは似てるのか?
「あーあとはもう少し晋助の身長が高ければなぁ〜」
バカかこいつ。人が気にしてる事をさらりと言いやがって。
いや。そんなこいつに恋してる俺の方が相当バカだな。
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