可哀想な子。人間に生まれていれば想いを伝える事も出来ただろうに…。そうね、少しだけ…ひと夏だけあなたにあげましょう
不安な夢を見た。あの時と同じ場面を何回も何回も繰り返す夢。朝方、パッと目が覚めて自分の手を見る。良かった…人間の手だ。こめかみに触るとうっすらと汗をかいていた。それから寝付く事も出来ずにお妙さんと新八君が目覚めるまで縁側に座って空を眺めた。
「あら、新ちゃんたらまた忘れ物」
太陽が真上まで上がった頃。お妙さんが少し呆れ気味で言った。手には持っていくはずだった荷物だろうか、風呂敷で包まれていた。
「あの、お妙さん。私で良ければ持って行きます」
「え?あら、そう?ならお願いしちゃおうかしら」
「喜んで」と返し、私は荷物を受け取った。場所は昨日万事屋からここまでの道のりを辿っていけばいいだけのこと。迷う事は無いはず。
なのに迷った。同じ道を歩いて来たのに何故だろうか。
「おかしいなぁ」
昼と夜じゃ見えていた景色が違う。こんな道、昨日は見なかったな。
太陽が熱い。ちょっと立ちくらみがした。あ、そっか。いくら人間になっても、元は魚だから暑さには弱いのか。ちょっと日陰に休もうとした時、
「どうした?気分悪ぃのか?」
下ろした顔を見上げると、真っ黒の服を着た男の人が数人立っていた。腰には刀。見るからに悪い人のオーラが出ていた。
「えっと…」
「どーしたのかって聞いてんだよ」
彼は煙草をふかし、そう言った。
「土方さんみたいなクソマヨ野郎が声かけたからヤベー奴って思ったんじゃないですかィ?…安心しな俺らは真選組だ」
「さりげなく悪口言ってんじゃねぇよ」
真選組、私はそれを知ってる。いつもお昼寝をしている時もテレビをつけたままの坂田さんのおかげで外の世界の知識を少しは頭にインプットしている。真選組は確か善の為に活動している部隊だ。
「あ、万事屋に行く所だったんですけど道に迷っちゃって」
「旦那の所ですかィ?なら真逆ですぜ」
「旦那?」
どうやら道を知っているようだ。自分の方向音痴に驚いた。真逆の道を歩いていたとは。そして旦那って誰の事なんだろう?
「あ?知らねーのか?あの腐れ天パだよ」
天パ…坂田さんの事か。
「マヨってんなら連れて行ってやる」
「土方さん、あんた犬の餌食い過ぎて迷う≠フ漢字も忘れましたか」
「バーカ、発音は一緒だろーがよ」
仲が良いのか悪いのか。そのやりとりを黙って見ていると、「何やってるんですかィ。付いてきなせェ」と声を掛けられ、慌てて彼らの後を追いかけた。
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