不器用ながらに案内してくれた道順は昨日通ったものと一緒だった。
「あ、ここです{emj_ip_0792}」
角を曲がって見えて来た万事屋の建物に私は駆け寄った。
「案外近かったんですね。助かりました。ありがとうございます」
深々と頭を下げると、タバコを吸っていた男の人は「あぁ、もう迷うなよ」と軽く笑って今来た道を歩き出した。それに続いて他の人達も彼に着いて行った。ただ明るい茶色の髪をした彼は私をじっと見つめていた。
「…?あの、皆さん行かれましたよ?」
「あんた、旦那の知り合いですかィ?」
私の質問の答えにはならない言葉が返って来た。
「ちょっと今訳あってお世話になっていますが…」
そう返した私の言葉に「そうですかィ」とだけ呟いて彼も同じ道に向かって歩き出した。私はわけも分からずただ彼らがその位置から見えなくなるまで見送った。
踏む度にギシギシとなる階段を登りきり、玄関の前に立った。 テレビで得た情報では確か家の中に入る時にはこのチャイムと言うものを鳴らすのが常識と習った。そっとそのボタンを押すとピンポーン≠ニ音が鳴った。
「きゃっ{emj_ip_0792}…本当に鳴ったわ」
思っていたよりも案外高めの音が鳴った事に少しビックリした。
…。
あれ?誰も出てこない。もしかして聞こえてなかったのかな?よし、もう1回。
ピンポーン
…。
これは誰も居ないのかな?少しがっかりした気持ちで扉に手をかけてみると鍵はかかっていない様子だった。
「開いてる…誰か居ますか?」
頭だけを家の中に突っ込んで声をかけてみる。が、やはり返事は返って来ない。お妙さんから預かった荷物をそのまま持って帰るわけにもいかないのでリビングのテーブルにでも置いて帰ろうと思った私は、「お邪魔します」と声に出ているかさえも分からない様な声量でゆっくりと玄関に足を踏み入れた。
「あぁー、いい風呂だった」
突然、ダンダンダンとこちらへ近付いてくる足音と共に玄関右手からタオル1枚で下半身を覆っただけの坂田さんが現れた。
「…{emj_ip_0793}キャアアア{emj_ip_0792}」
「うぇっ{emj_ip_0793}うぉっ、ちょっ…なまえ{emj_ip_0793}」
予想もしていなかった事態に私は悲鳴と両手で顔を覆う事しか出来なかった。恐らく今足音からして坂田さんは慌ててその場でバタバタを足踏みをし、急いで寝室まで走って行ったと思われる。向こうから「悪りぃ{emj_ip_0792}ちょ、ちょっと待っててくれ{emj_ip_0792}」と慌てている坂田さんの声が聞こえた。
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