「あ。ヤベ、餌やんの忘れてたわ」
立ち上がり、そう言って金魚鉢へと歩き出す。
「あれ?やっぱり今日も見当たらねー」
「な、何がですか?」
小さな餌を指でつまみ、パラパラと水面へと落としていく。銀ちゃんは何かを探している様に色々な角度から金魚鉢を見回す。
「ん?俺が気に入ってる金魚。祭りでさー、傷だらけのヤツがいて可哀想だったから店のジジイから貰ったワケよ。1匹だと寂しいと思って仲間も飼ったんだかけど…その傷だらけのヤツを最近見かけねーんだ。水草の中かな…」
「突っ込んでみるか」と言って右手を挙げた銀ちゃんに慌てた私は「ダメ!」と言ってその右手を掴まえた。気付けば近くにあったその顔を見て、更に私は慌ててその手を振り払う。
「ダ、ダメです。金魚を刺激したら…ストレスで死んじゃいます」
「だ、だよな!」
確認しなくても分かるそのカァと赤くなった顔を見られなくて私は俯いた。
そのまま少しの沈黙が続いた。
「「あ、あの」」
「ただいまヨー!!…って、二人共しゃがみこんで何やってるアルか?」
玄関から急に元気な声が聞こえたかと思えばその声はすぐさま応接間にも響いた。コンビ二にでも行っていたのだろうか。手には買い物袋と、隣には定春の姿があった。
「や、やぁやぁ!神楽ちゃんと定春君じゃないか!君達こそ一体何をしていたのかな!?」
「何ネ、その棒読み。銀ちゃんがいつまで経っても起きないし、冷蔵庫には何も無いし、仕事も無いし、金も無いしでコンビニに酢昆布買いに行ってたアル」
「神楽ちゃん、無い無い無い無い言わないで下さいよ。さすがの銀さんもヘコみますよ。なまえさん、おはようございます」
靴でも並べていたのか後から遅れて新八君がやってきた。朝私が家で起きた時も既に新八君は稽古だと言って出て行ったらしく、家には居なかった。
「あ、おはよう!新八君、ここに居たんだね。わ、わ、私はそろそろ帰ろうかな!」
「えー!まだ朝は始まったばかりアル。遊ぶ遊ぶ遊ぶー!!」
私と遊びたいと駄々をこね出す神楽ちゃんは床に寝転びゴロゴロと回り出した。
「神楽ちゃん、我儘はダメだよ。なまえさんにも予定があるかも知れないでしょ」
「新八は家に帰ればなまえが居るからイイアル。神楽ちゃんも遊びたいー!!」
「今度遊ぼう?ね?約束!」
特に帰ってもする事は無いのだけれども、このまま銀ちゃんの側に居たら心臓が耐えられないと思った。なのに、
「そーゆー事。はいはい、もう駄々こねんのは終ぇーだ。なまえ、行くぞ。送ってやる」
「えぇ!?」
急なお誘いに声が裏返ってしまった。
「いや、まだ明るいですし、道も大体覚えましたから大丈夫ですよ?」
私と銀ちゃんとのやりとりを3人は黙って見ている。
「いいから、黙って送られてときなさい」
「…はい」
「新八、何アレ」
「神楽ちゃん、大人になろうよ」
「ずるいアル!!銀ちゃん、なまえと二人で遊ぶつつもりネ!」
「え、そこォ!?」
「あんなに独占欲の強い男とは思ってなかったアル!よし、こうなったらあの計画を立てるアル!!」
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