草履で踏む砂利の音だけが今は耳に響く。身長が私よりはるかに大きい銀さんの歩幅に私の歩幅はなかなか追いつかない。

まだ朝なのに。人だっていっぱい居るのに。どうして送ってくれたんだろう。

ある程度距離が開くと銀さんは立ち止まって待ってくれた。お妙さんが居る家まで特に会話が盛り上がった訳じゃない。

「暑いな」「そうですね」「明日も快晴らしいぞ」「そうなんですね」「この会話、いいともみたいじゃね?」「なんですか?それ」「そこは、そうですね。だろ」

他の人が聞いたら、なんてつまらない会話なんだろう。そう思うだろう。でもこの空気は私は嫌いじゃなかった。気付けば目的地はすぐ側まで来ていた。


「ここで大丈夫です、わざわざ送ってもらってありがとうございました。嬉しかったです」


先を行く銀さんの前まで速歩きで近づき、お礼を言ったが銀さんは少し目を丸くして口元を手で隠した。私にはそれが笑っている様に見えた。


「素直だな」


「え?」


「いや、何でもねーよ。じゃーな、暑いから気をつけろよ」


そう言って私に背を向けて歩き出した銀さんは、その後ろ姿を私が見ている事を悟っているかの様に手をヒラヒラとさせて行ってしまった。しばらくして小さく消えて行く銀さんを見届ると、ふとどこからか視線を感じた。左右にキョロキョロと首を動かし周囲を見回すとその犯人はお妙さんだった。丁度布団を干していところだったのか、二階から私を見てニヤニヤと笑っている。


「朝からご馳走さま。というより、銀さん、私にもあの位優しくしてくれてもいいと思うんだけど。そんな所じゃ立ったままじゃ、暑くて倒れるわよ。さあ、中に入って一緒に冷たい物でも食べましょ」


「早く入ってらっしゃい」と、お妙さんは中に入っていった。恐らく一部始終を見られていたのだろう。家に入ろうとすると太陽の暑さで頭がクラっとした。

そこで私は気付いた。どうして銀さんが私の隣を歩かずに前を歩いていたのかを。

太陽の光を遮ってくれてたんだ。

偶然だったのか、本当だったのかは分からないけど私はそうだったと思う。












「なまえちゃんは銀さんが好きだったのね」


「あの、いや、その、えっと、これはその…」


「いいのよ、隠さなくて。私口は堅いから。あ、新ちゃんの事は心配しなくても大丈夫よ。あの子鈍感だから、多分」


「そうなんですか、良かったです」


「あ、やっぱり好きなのね!?」


「あ!!!」


お妙さんに隠し事は出来そうにないみたいです。


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