クレイジーな彼ら
「暑っついなぁー。あ、ねぇ沖田君。あそこに甘味屋さんがあるよ。入ろうよー」
「なまえさんが奢ってくれるんなら入りやす」
「部下に奢らせようとするの{emj_ip_0793}ホントにゲスだなー。普通先輩が奢るもんでしょうよ」
「いやいや。先輩に奢らせようとするなまえさんもなかなかのゲスですぜ?」
「お前らうるせぇ。真面目に仕事しろよ」
ほら、沖田君が素直に奢らないから土方さんに怒られたじゃん。今日は私の嫌いな見廻り。こんなヤル気の起きない時は妄想デートにすり替えるのが一番。土方さんとデートしている気分になればつまんない見廻りも楽しくなるんだ。
「見廻りつまんねぇとか言うな。仕事だろが。あと、妄想やめてくれ」
「…」
甘味屋を諦め、曲がり角を曲がると向こう側から知っているふわふわとした銀髪の男が現れた。
「あれ、万事屋の旦那じゃねぇですかぃ」
「あらー、税金泥棒の真選組ではあーりませんか」
ガシャン。
土方さんが目の死んでいる彼の手に手錠をかけた。
「万事屋ァ。いい事教えといてやる。今の俺たちに税金泥棒とか言ってっとパクられるらしいぜ?気を付けな」
「いや、待って土方くん。今すでにパクられちゃってるよね?コレ。そーゆー事は手錠をかける前に教えてくんないかな」
この今まさにパクられ真っ最中の人が万事屋をしている銀さん。死んだ魚の様な目をしているけど、いざとなると輝くって初めて会った時に言ってたな。あ、今ふと小さい頃にお父さんから魚の目玉を食べると頭が良くなるよ。って言われて焼き魚の目ん玉をいつもほじくって食べていたのを思い出した。今考えると気持ち悪。
急に銀さんが私に振り返る。
「あ、ところでなまえちゃん、銀さんと彼氏彼女な関係になんの考えてくれた?」
銀さんは何故か私に気に入ってくれている。会う度に同じ事を言ってくるから嘘か本当かまったく分からない。「おい、てめぇ。人の話は最後まで聞けよ」と、置いてけぼりの土方さんが呟いている。
「あ、遠慮しときます。私、土方さんラブなんで」
「銀さん、土方くんとほぼほぼ身長体重一緒よ?何か違いある?」
「土方さん、さらさらストレートヘアです」
「…負けた」
うっすら銀さんの瞳に涙らしきものが見えた。傷付いちゃった?ま、それだけじゃないんだけどね。「ん?」と、何かに気付いた銀さんが急に私の顎に手を添えて顔を近づけた。
「どったの?これ」
そのまま親指で唇をなぞられた。ん?なんだろう。視線をそらして考える。視界に何か言いたそうなしかめっ面をした土方さんと、その土方さんをニヤニヤした顔でみる沖田くんが映った。
「あ、傷のことですね?私もよく分かりません。気付いたら出来てました。乾燥したからかも」
「乾燥?そりゃ大変だな。銀さんが舐めて潤してやろうか?」
「結構…」
結構です、と言いかけた瞬間、私の顎を持ち上げる銀さんの手首をスッと掴む手が現れた。その手を追うと、持ち主は土方さんだった。
「いい加減やめとけ」
明らかに機嫌の悪い土方さん。その後ろでは声を出すのを堪えながらヒーヒー笑うゲス沖田。何が面白いのだろうか。彼は今、必死に写メを撮っている。
「ちょっと。邪魔しないでくんない?…つーか、…お前のその唇の傷もどーしたんだよ?」
「あ!野良猫に噛まれたらしいです。」
なんか二人の雰囲気が険悪そうだったので私が間に入った。沖田君はついに動画を撮りだした。
「ふーん。野良猫ねぇ。」
銀さんは意味ありげに私の口元を見かえした。みんな何なのもう。
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