突き落とす三文字









そっと手を掛けた障子を少しスライドして中を覗くと、部屋には布団が既に敷いてあって掛け布団はゆっくりと上下に動いていた。土方さんが体調悪いのすっかり忘れて、頭の中はピンクな事でいっぱいになった。


「ムフフフ」


あ、マジで考えてる事が口に出てるわ。と、今初めて気付く。そっと観察してると(気持ち悪)、見えなかった土方さんの顔を見えた。えっ{emj_ip_0793}顔、真っ赤{emj_ip_0792}



スパーン{emj_ip_0792}


「土方さんっ{emj_ip_0792}」



突然、障子を勢いよく開いた音にびっくりして土方さんは目を見開いた。


「…{emj_ip_0793}…うるせー、つーか覗いてたんなら世話しろ」


肩で息をしている彼はとても辛そうだ。触らなくても分かる。土方さんは今、確実に高熱真っ最中だ。こんな時にいやらしい事を考えていた自分に鼻フックしてやりたい気分だわっ{emj_ip_0792}そっと部屋に入り、土方さんのおでこに手を当てると案の定熱かった。



「わわわ{emj_ip_0792}た、大変だ{emj_ip_0792}ちょっと待ってて下さい{emj_ip_0792}」


土方さんの答えも聞かずに部屋を飛び出して向かったところは…



「おばちゃんっ{emj_ip_0792}」



土方さんの事を教えてくれたおばちゃんの所だった。生まれてこの方、元気っ子の私はなんと風邪をひいたことが一度も無い。つまり熱の対処法を知らないのだ。そうなるとやはり、年の功でおばちゃんに聞くのが確実だろう。土方さんの状態を伝えるとおばちゃんは「ちょっと待ちなさい」と言って何かを準備し始めた。桶やらタオルやら薬やら色々集め、あぁしなさい、こうしなさいと教えてくれた。


「ありがとう、おばちゃん{emj_ip_0792}やってみるね{emj_ip_0792}」


手を振り食堂を出ようとした時、「待ちな{emj_ip_0792}」と呼び止められた。振り向くと私に親指を向けたおばちゃんが「一番の薬は愛だよ」と柳沢慎吾並みのウインクをかましてきた。無言で頷き、私も親指を立てる。私とおばちゃんはバディになれた気がした。



「お待たせしました」



部屋に戻ると相変わらずの状態で土方さんはしんどそうだ。


「体起こせますか?とりあえずちょっとでもご飯を食べてお薬飲んで下さい」


上半身を起こすのも辛そうなので、寝ている彼の枕と首の後ろに腕を通して手助けをした。え?下心?そんなの無いよー。今は土方さんを助けるのが先{emj_ip_0792}


「あとは水分です。いっぱい飲んで下さい。汗をかくと思うんで」


言われた通りに水をたくさん飲む土方さん。下心はないけど、私の言った指示通りに動く土方さんを見て少しS心が芽生えてきました。


「あとはゆっくり寝るだけですよ。濡れタオルおでこに置きますね」



そう言って桶に入ったタオルの水を絞っていると、視線を感じたので元を辿ると土方さんがじっと私を見ていた。



「…?どうしました?何かして欲しい事とかありますか?」










「…すまねぇ」



かすれそうな声で土方さんは呟いた。その言葉で私の心は満足したらしい。自然とにやけ顔になったのが分かる。桶に視線を戻し、「いいですよ、…今度パフェ奢って下さいね」と要望を言ったら、「あぁ…いくらでも奢ってやる」と言ってくれた。


それから暫く寝た土方さんは汗をかいたので着替えをし、(着替える時は締め出された)おばちゃんが用意してくれていたお粥を食べて再び眠りについた。穏やかに眠る土方さんのおでこに手を置くと、平熱に戻っているようだ。



「…よし。この位になればもう上がらないかな」



おばちゃんの教えをしっかり聞いてて良かった。気付けば時計の短針は2と3の間を指していた。


「ありゃ、もうこんな時間だ。私も寝ようかな」



私も明日の事を考えそろそろ眠ろうかと立ち上がろうとした時、急に手首を土方さんに掴まれた。


「{emj_ip_0793}…土方さん?」







「…行くな」



急な展開に目をぱちくりしてしまった。





「あ、あの…」










「…行くな、ミツバ…」







そう言った土方さんはコテンと寝てしまった。










あれから私は自分の部屋にどうやって戻ったかあまり覚えていない。気付いた時には布団の上でお腹を出して大の字になって寝ていた。いつもと変わらない朝だった。ただいつもと違ったのはあの忌々しい沖田君の目覚ましよりも早く起きた事と、私の瞳からこめかみに涙の跡が出来ていた事だった。



戻る
ALICE+