ゴリラの願い
「近藤さーん、なまえでーす。入ってもいいですかー?」
山崎に言われた通りに仕方なく、近藤さんの部屋に向かった。何か嫌な予感しかしないんだよなー。人の気配を感じる和室に襖越しに声をかけた。
「なまえちゃん、待ってたよ‼さぁ、入って」
向こう側からウキウキした近藤さんの声が返ってくる。「失礼しまーす」と、ゆっくり襖を開けると、刀を手入れしている近藤さんの姿があった。このゴリラが近藤さん。真選組の局長なんだけど、ストーカーしたり、フルチンで稽古したりで、もはや警察か犯罪者か危ういところだ。こんな人が真選組の局長やってんだから世も末だよね。
「山崎から話は聞きました。何か私に頼み事があるって」
近藤さんの前に正座する。足しびれる前に退散しよう。
「なまえちゃん‼勲の一生のお願いっ‼」
近藤さんは刀を置いて、両手を顔の前に合わせ少し頭を下げた。
「ダメです。」
「えっ、何でー⁉」
間髪入れず答えてやった。近藤さん忘れたな?もう足が痺れ出した私は足を崩した。
「この前、“勲の一生のお願い”はもう叶えたじゃないですか」
「えっ、もう使っちゃったっけ?」
近藤さんは目線を右左にやり考えている。やっぱり忘れてるわ。
「3日位前に勲の一生のお願い≠ナ、近藤さんの白髪を抜いてやりました」
「…」
それを聞いて黙る近藤さん。思い出したようだ。しょーもない願いだったな。
「じゃあ、トシからのお願い‼」
じゃあ。って何よ。
「なまえちゃんの大好きなトシからのお願い‼」
ウインクをする近藤さんを見て、ちょっと胃酸が上がってきた。つーか、土方さんからのお願いって明らかに嘘だよね?土方さんの名前出せば良いってもんじゃないんだよ。
「ねーねーねー、お妙さんからの頼みなんだよー。なまえちゃんお願いー‼」
私の白けた顔に気付き、近藤さんはすがりつく様にお願いし出した。お妙さんって誰だったっけ?確か、近藤さんがストーカーしてる人じゃなかったっけな。
「スナックすまいるって覚えてない?」
すまいる?聞いた事あるよーな。…あ‼思い出した。確か1ヶ月位前に松平のとっつあんがぐでんぐでんに酔っ払った時に近藤さん達と迎えに行ったスナックだ。
「実はすまいるの従業員が足を骨折したとかで「それは可哀想ですね。じゃ」」
「最後まで聞いてー‼お願いだからー‼」
立ち上がり部屋を出ようとする私の足に近藤さんは引っ付いて離れない。
「ぎゃー気持ち悪い‼強制わいせつ‼」
近藤さんは土下座に姿勢を変え、涙ぐむ。こんな局長の姿を誰に見られたら、トップの威厳無くなるよ。
「人数が足りないんだって…今夜団体客が入るから人手が欲しいらしいんだ。この前なまえちゃんがすまいるに顔を出した時にお妙さんが気に入ったみたいで、なまえちゃんを今晩だけ貸してくれないかって事なんだよー‼」
気にいる?あの時、お妙さんって人がキラキラした目(狙いを定めた目)で私をガン見してたのはそれだったのかな?でも貸してくれってキャバ嬢としての要請だよね?待って、私の旦那が許さないでしょ。私が一晩だけとはいえ、キャバ嬢だなんて。
「トシからはもうオッケーもらってるから」
はい?
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