月だけが見ている







「土方さん」


そこにはまだ隊服姿の土方さんが立っていた。


「あれ、まだお風呂入ってないんですか?早くしないと女中のおばちゃんがお風呂掃除しちゃいますよ」



「お前よく普通の会話出来るな。説明してやろうか。あれからお前は何事も無かったかの様に、飯を食べ、風呂に入り、今に至る。俺はあれから報告書を書かされ、風呂も入らないまま今に至る。これで理解したろ?俺が隊服の理由が」


「因みにウ◯コじゃないですよ」


「俺の長い説明は無視なのな」


呆れた様にそういった土方さんは何故か私の横に腰を下ろした。










「あの…土方さんごめんなさい」


気付けば無意識のうちに謝罪の言葉が口から出ていた。土方さんの目なんて見れない。だってとっつあんからの命令とは言え、真選組の皆に心配をかけた事には違いない。自分で決めた事だけど、やっぱり罪悪感はあった。副長と言う立場からしてご立腹な事くらいは分かる。










「…勝手に消えといてこんな事言う資格も無いですけど、私ずっとずっと土方さんに会いたか…」


急に私の目の前が真っ黒になった。いや、正確に言えば土方さんが私を抱きしめていて私の目は土方さんの隊服で覆われてしまって真っ黒の世界になったのだ。

突然の出来事に口は半開き。ゆっくりと顔を上げると土方さんの首元がすぐ近くにあった。


「…理由は言わなくていい。だからもう黙って居なくなるな、…頼むから。どんなに上からの命令でも必ず俺に言え。今後勝手な行動は許さねぇ」


許してくれたのか、怒っているのかなんて分からない。でもきっとこうして土方さんが私を抱きしめてくれている事が答えなんだと思う。


「あ、あと」


「な、何ですか?」













「おかえり」







その夜、私は布団の中でふと思い出した。土方さんの隊服やけにタバコの匂いがキツかった。土方さんを観察し続けたら分かる事だけど、土方さんは不安になったり、イライラしたり、心配な事があるとタバコの量が一気に増える。その原因が私≠セったらいいのにな、なんて不謹慎な事を思いながら眠りについた。


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