バック・トゥ・ザ・ちょっと前







ちょっと前に遡ろう。これは私が土方さんの看病をして、寝ぼけた土方さんが沖田君のお姉さんの名前を呼んだ数日後くらいのお話。







今日は非番で良かった。あんな事があった私には隊務なんてとてもとても出来ません。そんなに心は強くないんですよ。あれから格下相手には練習で負けるわ、沖田君が仕掛けた数々のイタズラに気付かずひっかかる日々。散々だ。

そんな事ばかり考えていると、気付けば目的の場所へ着いていた。


「ちぃーす、邪魔するでぇー」


「邪魔するなら帰ってぇー」


「あいよー」


私は出入り口を出て晴天の空を見上げる。


「さ、どこに行こっかなー。…って、ちゃうわボケ{emj_ip_0792}」


振り返り、中に居る人物に叫ぶとニヤリとした口元をしてゴーグルを上にずらすおっさんが居た。


「今日もノってんなぁー、なまえ」


その人物の空いている隣の椅子に腰掛ける。


「源外のおっちゃんこそ。つーか靴調整してー」


そう言って靴を脱ぐ私。脱ぎ方が男っぽいと思い、女性らしく脱いでみた。やっぱりこういう所も男は見てるんだろな。


「お言葉だか、なまえよ。ABCマート辺り行ってくんねぇか?うち、そーゆーところじゃないって前から言ってんじゃん」


「いやー、江戸一番のからくり技師って何でも出来るから凄いよね?この前調整してくれたこの靴?ヤバイね。こんなヒールでも超動けるよ。やっぱり江戸一番≠フ名前は伊達じゃないね。こんなヒール履いて戦えんのって、私とセーラーマーズくらいだよ。あー、源外のおっちゃんはスゲーな〜」


そう言ってチラッと源外のおっちゃんを見ると鼻の穴が大きく開いていた。あ、あの顔は自分に酔ってる時の顔だわ。「つー事でお願いしまーす」靴を源外のおっちゃんの目の前に置いた。「しゃーねーなぁー、もう。今回だけだぞー」嬉しそうに仕事にとりかかるおっちゃん。チョロいもんよ。












「あい、出来たぞ」


しばらく待って仕上がった靴。今日は機嫌が良いのかワックスまで塗ってくれた。もはや職人技の仕上がりだ。


「サンキュー」


ふと、見られてる感がしておっちゃんを見ると、何か言いたそうな顔をしてた。


「お前、何かあったか?」


「え?」


咄嗟に出た声は間抜けな声をしていた。やっぱり気付かれるよねー。「元気が無いよ、なまえちゃんらしくないよ」って何人に言われた事か。


「…ちょっとだけ話聞いてくれる?」


私は土方さんの名前を伏せて、好きな人がふと、昔好きだった人の名前を呼んだ事を話した。



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