あの車が通らなければ、
「近藤さん。近藤さん。ねぇ、近藤さんってば!!」
私は何回も近藤さんを呼んだが、脇目も振らず踊り続ける近藤さんを置いて、朝礼へと向かった。ダメだ。完全に東山になりきってしまっている。私の声なんて届いていないらしい。
朝礼開始ギリギリになって近藤さんが汗だくで走って入ってきた。間に合ったみたいだけど、汗臭い近藤さんにみんな嫌な顔をしていた。
今日は土方さん達と共に見廻りらしい。あー。ツイてない。溜息が勝手に出ていた。靴を履いて門へと向かう。今日の空は雲行きが怪しそうだ。
「今日は雨が降りそうだね」
私がそう口にすると、「でも結野アナは降らないって言ってたよ」と山崎が返した。
「ならいっか!よし、今日も頑張ろうね!!」
と言ったら、「なんか調子狂うよ、今のなまえちゃん」と嫌味な事を言われた。あの一件の前の私はどれだけ性格が捻くれていたんだ。別にいいけど。
「テメーら、行くぞ」と言う土方さんの号令に合わせて隊のみんなに着いて行く。あーあ、銀さんに会いたい。
今日の見回りはやけにハードだった。万引き犯を捕まえ、カツアゲの現場を目撃し、スリを追いかけ、お魚加えたドラ猫も追いかけた。
ずっと走りっぱなしだった。
「(疲れたよぉー)」
屯所への帰り道、フラフラと歩いていた私の後ろから「なまえちゃん、危ない」と声が聞こえた。ふと、振り向くと、私の横をスレスレで走り去っていった車がいた。幸い、ぶつからずに済んだが、その瞬間よろけてしまい、足首をコキっとやってしまった。
「痛っ!」
「大丈夫っ!?」
さっき「危ない」と声をかけてくれたのは山崎だったようだ。この痛みは自分でも分かる。捻挫だ。手を掴んで山崎が立ち上がらせてくれたが、屯所までの距離を考えると足が持ちそうになさそうだ。
「おい、どうした」
隊の先頭を歩いていた土方さんがこっちに向かって来た。
「あ、副長。実は、かくかくしかじかでなまえちゃんがこんな事になりました」
「ほぅ。かくかくしかじかでこんな事になったのか」
「はい、かくかくしかじかでそーゆー事です」
「はいはい、かくかくしかじかね。って、テメェ、端折ってんじゃねぇ!全然分かんねーんだよ!!!」
「はぁ…分かんねーかなー。おい、マヨラーニコチン野郎。こーゆー小説の時にはな、かくかくしかじかで理解しねーと文字数が大変なんだよ。分かったか!?」
そう私が説明してあげると、山崎がうなづいていた。
「ね、マジで俺なんかした?つか、山崎お前しばらくカバディ禁止な。ムカつくから」
その言葉に山崎は涙ぐんでいた。どれだけカバディ愛してるの?
「山崎お前先に戻ってろ」
「分かりましたよぉ…で、副長は?」
「俺はコイツをおぶって帰る」
…は?
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