前言撤回







「そいつはうちにとって大事な女だ。手ぇ出されると困るんだが」


ひ、ひじかたはーん{emj_ip_0792}どうしてここに?確か夜は仕事があるって言ってたのに。いや、それより今何て言いました{emj_ip_0793}私の間違いで無ければ、「俺の女に手出すな」って言ったよね{emj_ip_0793}言いましたよね{emj_ip_0793}


「俺の女とは一言も言ってねぇ。また口に出てっぞ」


あ、いつもの癖が。団体客Aは小さい声で「し、真選組…」と呟いたかと思えば、そそくさと逃げてしまった。土方さんが隊服を着ていた事で理解したらしい。あー良かった。それより…


「土方さん、どうしてここに?夜も仕事があるって言ってましたよね?」


新しいタバコにマヨライターで火を付けながら、すぐに煙を吐き出す。すまいるからはキャバ嬢達が入り口に並んで、客の見送りをしている声が聞こえる。もうそろそろ店自体も閉店する様だ。



「近藤さんに頼まれたんだよ。お前を迎え行ってやれって」


マジか{emj_ip_0792}ナイス、ゴリラ{emj_ip_0792}グッジョブ{emj_ip_0792}


「ほら、もう店も終わるみてぇだぞ。荷物持って来い。帰るぞ」


なーに今の{emj_ip_0793}超彼氏と彼女みたいじゃなぁーい{emj_ip_0793}「わっかりましたぁー」と大声で叫ぶと同時に店に走りだす。うっぷ。吐き気が。

店に戻りお妙さんやブサイク嬢達にお礼を言うと、「またヘルプお願いねー」と言われた。荷物をまとめ外に出ると電信柱にもたれ掛かっている土方さんが待っていた。月明かりに照らされる土方さん、なんというイケメン。


「すいません、お待たせしました」


「おう」


「パトカーで来てないんですね」


「パトカーで行ったら事件と思われて店に迷惑かかるかもしんねぇだろが。面倒くせぇけど徒歩で来てやってんだ。感謝しろ」


します。します。感謝します。口は悪いけど、私の酔っ払いスピードに合わせて歩いてくれる土方さんはホントは優しい。

暫く歩き、屯所まであと200メートルといった時だろうか。なるべく体重をかけずに歩いていた私の片方の踵がとうとう悲鳴を上げだした。


「痛っ」


火傷の様な熱い痛みが踵を痛めつける。立ち止まりヒールを脱ぐと、うっすらと血が滲んでいた。


「そんな慣れねぇもん履くからだ」


だって…こんな格好滅多に無いんだもん。そういえばこの姿見ても土方さん何も言ってくれなかったな。派手な格好は好きじゃないのかな?あんなにみんなは可愛いと褒めてくれたのに、好きな人からは褒めて貰えないなんて。踵の傷をぼんやり見ていると、


「ほら」


踵から視線を移すと、しゃがみこんで背中を私に向ける土方さんがいた。



「乗れ。足痛ぇんだろ」


「え、でも…」


「でも何だよ。早く乗れ」


何、この展開。こんな美味しい話ある?少女漫画みたい{emj_ip_0792}でも、大丈夫?本当に大丈夫?











「だって…今からゲロ吐きます」


「は{emj_ip_0793}」


土方さんは勢いよく振り返る。無理、無理{emj_ip_0792}ちょっと我慢してみたけどもう無理{emj_ip_0792}
吐く場所を探そうと駆け出す。しかし、走り出した瞬間、高いヒールを履いている私の両足はもつれ転ける体勢に入った。人間はこんな時、瞬時に手が出るが酔っていると脳の下す判断は遅いらしい。スローモーションの様に近付いてくるコンクリートの地面に瞼は自動的に閉じ、受け身を取る。痛いという感覚を覚悟した私。しかし、反比例する様に伝わった感覚はそれとは似つかない温かい感触だった。でも一箇所だけ痛い感覚が襲ってきた。唇に何か硬い物が当たり、口に鉄の様な味が広がる。それは一瞬の出来事で、その後唇には柔らかい何かがあった。


この感じは何だろうか。同時に睡魔も襲ってきた。昔、寝ゲロをした友人を見て、「寝ゲロなんてありえねー」と言った事があった。しかし、撤回しよう。人は寝ながらゲロを吐く事が出来ると。



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