03 「野宿するんだから、モチロン食糧もいるよネー?」 人差し指を立てて、ルダはちらりと横目で流し見しつつユギに尋ねた。話しかけられたユギは視線だけ動かしてルダの方へとピントを合わせる。 「そうだな、しかし心許ない。何処かで調達する必要があるだろう」 顎に手を添えたままそう言うと、彼は片腕を黒衣のポケットに突っ込んだ。黒衣から伸びる長い尾はゆらゆらと揺れる。 「あれ? 街(あっち)で買ってきていないのか」 すると話の流れを聞いていたダリが、きょとんとした様子でユギに声をかけた。片手で金袋を握りながら呆けたまま彼を見るダリの顔は、ずいぶんと間抜けである。 揺れていたユギの尻尾はぴたりと止まる。ダリはユギの顔を見る。痛いところを突かれた、と言わんばかりの表情のまま硬直していた。 「……ふっ」 「忘れたのかよおい」 そうして苦し紛れに吐き出した言葉は、呆れ顔のダリに突っ込まれることとなる。 ダリはため息を吐いて頭を掻く。事を進めるために考えなければならない。落ち着いて先を見据えろ、と自身に言い聞かせる。 「買い出しに出るしかないな」 思案する意味もなく、結果は簡潔に叩き出される。 今度は買い出しに出るメンバーを決めなければならないのか、それ以前に何処に買い出しに出ろと言うのか。ダリの心中は慌ただしいもので、息をつく暇もないままにぐるぐると巡り合う。 そんなダリを鼻で笑う者が一人。こんなふてぶてしい態度を取るのは、言うまでもなくユギしかいなかった。 「近辺に貧賎ではあるが村を見つけてある。そこで買えばいいと思うぞ」 「買う羽目になった原因が偉そうな口利くんじゃねえよ」 「私のせいだというのか?」 「お前のせいだろ十中八九!」 余裕のある態度で淡々と言葉を返すユギとは、どうにも性に合わない。それを痛感しながらも、噛みついて言い返すことがやめられないのは彼の手のひらに乗せられているからなのだろうか。ぼんやりと思うものがありながら、ダリはそれを表に出そうとはしない。 ダリは「ふざけんな」と言いながらユギの眉間に指を押し付けた。嫌がるユギはダリの腕を掴む。力比べで勝るのはダリであるため、ユギの行動は結局無駄な抵抗に終わる。 「アノー、買いに出るなら買いに出るでとっととメンバー決めちゃわないカナ? お二人さん?」 意味のない攻防戦は、苦笑しているルダの一声で休戦を迎えた。 距離をとった二人は同じタイミングで腕を組む。その様子を見ていたリラは堪えきれずに小さく吹き出していた。 「悪いが私はパスだ。体力を温存しておきたいのでな」 「じゃあ誰がその村に案内するんだよ」 「問題ない、イユが場所を知っている」 名を呼ばれてぴくりと反応を寄越す、左右で色の違う耳。ゆっくりと動くそれは二人の会話を静かに聞いていた。 イユは数回頭を右、左に傾げると首元のマフラーに触れる。それから意味もない瞬きを繰り返して、緩やかに口を開く。 「案内すればいいの?」 「そういうことになるな」 イユは小さく呻いた。きゅっと眉間にしわを寄せると、うう、と声にならない声を吐き出す。 「……わかった」 けれど彼の口からは、承諾を意味する言葉が飛び出してきた。ユギはほっと胸を撫で下ろす。 ユギとしては、彼が直々に出向きたいというのが本音だった。しかしながら、彼は本当に体力がない。その上治ってない生傷や古傷がじくじくと痛むため、あまり動きすぎると自身がお荷物に成りかねないことを熟知していた。 イユは言い終えると、口元をマフラーでそっと隠す。目立つ尻尾は上下に揺れていた。 突如、元気よく上げられる拳。誰よりも小さな手のひらは勢いよくぶんぶんと振られている。 「おでかけならボクもいく!」 目を輝かせてそう言ったのはギルだった。目一杯にキラキラと光る彼の黄色い瞳は、好奇心に染まりきっている。 出掛けたばかりだろうが、若いとは羨ましい。ぽつりと呟かれた言葉はギルの耳に届くことはない。 「ギルが行くなら致し方ないな、私も同行するしか……」 仕方がないと言わんばかりにユギが口を開いたとき、ダリの腕がそれを制した。 「俺が行く」 良いのか? ユギの視線がダリへと集まる。少しばかり動揺した彼の眼は、揺らいでいた。 ダリは小さく笑うと、言葉を出さずに口を動かした。気にするな、と。 それから手に持った金袋を見せつけるように差し出すと、再三破顔する。 「それに、これを管理しているのは俺だしな」 喉の奥で笑いを噛み殺して言えば、ユギの目が細められた。彼の唇は三日月を描く。 「計画的だな」 嫌味を込めて呟かれた言葉に、ダリは笑って流すことしかできなかった。 直後にダリは、自分が同行すると知った瞬間のイユの顔を見てひやりと心中を冷やすことになる。いつか嫌われない日が来るのだろうか、と途方にくれ、袖を引いたギルの笑顔にはっと我に返り、思わず脱力した。 |