チラチラと視界に真っ白な綿が映り込んでいる。呼気からは絶えず白い煙が上がっているし、鼻頭や指先や耳がじんじんと痛んでいた。
どこを見渡しても白一色な景色の中で、裸足の僕は雪を踏みしめながら、現状を把握出来るわけもなく呆然としている。
ここはどこだろうか。
ううん、と唸り声を上げる。それから記憶を辿っていく。確か僕は、いつものようにパソコンを立ち上げてUndertaleを起動したはずだったのだけれど。
……そう、そうだよ。久しぶりにサンズを殺したくなったからGルートに行こうと思ったんだ。それだけだったんだ。
となると、そのまま眠くなって寝てしまったのだろうか。困惑しながら考えたってまとまった意見が出るはずもないのに、僕は灰色の空を見上げて必死に思考を巡らせることをやめない。
ここは夢の中なのだろうか。だとしたら、覚めてほしい。寒いのは嫌いだ。暗いし怖いし冷たいし、寂しいからきらい。
夢中の僕はパジャマ姿だった。防寒のぼの字も見受けられない。底冷えだってしてしまうから、思わず歯がガチガチと音を立てる。
このままだと凍え死にしてしまいそう。
とにかく、暖かい場所へ行きたいと思った。このままだらだら歩いていたって仕方ない。あんまり走りたくないけれど、歩き続けるよか体があったまるだろう。そう思ったから、柔らかな雪の絨毯を踏みしめて、一歩二歩駆けていく。
やんわりと後ろを振り返ると、足跡がついていた。
ちょっとだけ面白いかもしれない。雪は嫌いだけど。
それからすぐに視線を前に戻して、走る、走る。体力もないくせにずんずん走るけれど、景色は変わらなかった。
肺にたくさん冷気が取り込まれていく。苦しくなってきたから立ち止まると、吐き出すような感じで咳き込んで、ついでに嗚咽も漏れた。気持ち悪い。やっぱり走らなきゃ良かったかな。
「っおえぇ。……ん?」
若干後悔しつつも呼吸を整えて前を向くと、今し方には見られなかった変化が目の中に入ってくる。思わずぱちぱちと瞬きをした。けれどそれは空虚な幻覚でもなんでもない。存在していると見て良いだろう。
ぼんやりとしたシルエット。夢の中の僕は眼鏡をかけていないから、それが何なのかまでは分からない。
好奇心が掻き立てられて、ざくざく雪を踏んで進んでいく。考えるよりも行動が先だった。
じりじりと距離は縮んでいった。それと同時に、向こう側にかかったモヤは晴れていく。紺色のパーカーらしきものを羽織った、ナニカが雪降るこの世界に立ち尽くしている。
思わず早足になった。もう寒さなど気にならない。寒すぎて痛いくらいになった僕の足は真っ赤で霜焼けになっていそうだったけれど、どうせ夢なのだからと気にも止めなかった。
やがて、シルエットは明白になる。滲んだ輪郭ははっきりと存在を描き出す。
頭の左側が割れた、がいこつあたま。一瞬息が出来なかった。それに合わせて、紺色のパーカー。近づいてみてわかったが、それには黒っぽい液体が滲んでいる。
どこかで見たことのある、外見。
どき、と心臓が大層に跳ねた。脳内で呟く。もしかして、ホラーサンズじゃないの。
声をかけたいと思った。咄嗟に口を開けるが、漏れるのは情けないことに吐息ばかりで、喃語すら出てきやしない。両手が震えるのを感じる。頬に血が登って、カッと熱くなった。
「Heh,なにやら、音がするな?」
と、骸骨がこちらへ振り返った。予想は的中する。左側だけ灯った真っ赤な目が、ぱちりと僕の目とぶつかった。心臓はいよいよ限界と言わんばかりに、ひっきりなしにバクバク鳴いている。
「……人間?」
僕を目にした瞬間、骸骨は──ホラーサンズは、少しばかり目を小さくして、ニヤついた三日月型の口を細くした。
夢みたいだ、いや、実際夢なんだろうけど。それにしたって夢でホラーサンズと会えるだなんて!
感極まって、抱き締めたいと思った。ただただ嬉しさが押し寄せていた。
だから忘れていたのだ、ホラーサンズの性格を。
「何見てんだよ」
ホラーサンズが僕にそう言った直後、彼は深まった笑みを更に深めて、そこから先は視界が真っ赤に染まって、……それっきりだった。
聞き慣れた被弾音と同時に、胸に尖った何か(恐らくは骨だろう)が突き刺さったのを辛うじて覚えている。
それから、目の前で灰色のハートが、割れて砕け散るのを確かにこの目で見てしまったのだ。
白い尖ったものが突き立てられて、粉々に砕け散るのを。
2016/05/17