いつからそこに居たのかわからない。ただ、ぼんやりとした感情のみが腹に居座っていた。
消えてしまった、あるはずの物語。己がチェシャ猫という概念の寄せ集めだと悟った頃、自分は不必要になったから捨てられ、忘れ去られたのだということに気づいてしまった。
「にぃ、にぁ、にぇ、にぉ」
たどたどしい言葉を喉の奥から絞り出して、猫の真似をして鳴いている、ちっぽけな魔物。
飽きてしまったから、ウケが悪いから、デザインが気に入らないから。そんな理由で無かったことにされてしまった、チェシャ猫だったはずの存在達。
「Nyao meaw myu」
ちぐはぐでつぎはぎでばらばらの、残滓達。
──どうして、勝手な都合で僕達を捨て置いてしまったのか。
それを彼が知ることはない。知ることは出来ない。何故なら彼は、忘れられた、誰かの創作物の残りカスだから。
「Grin like a Cheshire cat」
どんな目的で生まれたのかはわからない。
たくさんの「チェシャ猫だったもの」の孤独を胸に、男は空を見上げた。
チェシャ猫のように笑いながら。
2017/12/10
一度は望まれて生まれたはずなのに。