ツヴァイは、チェシャ猫だったはずの残滓達である。
だからこそ、──知りたくなくとも、知り得てしまうものはある。
目の前でコロコロと表情を変える、ビビットカラーの男性。頭頂部から一本だけ抜きん出ているアホ毛を揺らしながらソファの上で丸くなっている彼を眺めつつ、ツヴァイはやんわりと眼を細めていた。
(彼はきっと)
メリーを見つめながら、ぐるぐると喉を鳴らす。袖に隠れた手のひらを閉じたり開いたりしながら、彼は喉を鳴らしている。
(僕にならずに済んだはずの、あの子だから)
不思議と、妬む気持ちは湧いてこなかった。それが本人にも不思議で仕方の無いことだった。
お前は愛されている、それがずるい、と糾弾してしまうものだとばかり自負していたが。──意外にも、心は凪いでいる。
否、妬むばかりか。
(……愛されたあの子だから)
何故か、心底安堵してしまうのだ。
ツヴァイは不意に顔を上げると、地を蹴ってメリーの元へと駆け寄る。一歩、二歩と宙を踏んで彼の眼前へと降り立ったツヴァイは、チェシャ猫のようにニンマリと笑った。
「良かったね」
刹那、メリーがほんの一瞬ばかり目を丸くする。ビー玉のように縮んで、されどそれは息を吐く時には元通りになっていて。
「僕は、君のような存在に会えて本当に嬉しいんだ」
「……ツヴァイ?」
メリーが唇を開いた頃には、チェシャー・キャットの気配は口のみを残して消えていた。
三日月型の口はふわふわ空中を漂いながら、窓の外へと失せてしまう。
メリーはその様子を眺めながら、小首を傾げ。……けれどその後は気にするそぶりも見せずに、再びソファーの上で丸くなったのだった。
2017/12/16
それは、確かな救いだったんだ。
イチカさん宅メリーさんお借りしました。
寂しがり屋のチェシャ猫さんかわいい。