墓守とコックリさん



 赤い縄がピンと張り詰めている。手綱を握るのは、スカイブルーの体毛を揺らすイヌ科の獣人である。
 歯を食いしばりながら必死に引っ張っているものの、対象が動く気配は微塵も感じられない。

「死にたい……放っておいてくれよ……」
「死んじゃうだなんて、絶対にダメですぅう……!」

 縄は男の首へと繋がっている。

 死にたがりのコックリさんは度々自殺未遂を繰り返すことで、洋館に住む者達の間でもちょっとした噂になっていた。
 その噂を聞きつけた獣人の女性は、顔色を変えて男の元へと向かったはいいものの。
 このようなイタチごっこにしか見えないやりとりを繰り返しながら、自殺行為をやめさせられないでいる訳なのである。

「し、死んじゃったら、……うぅ、私がお墓掘らなくちゃいけないじゃないですかぁ……」
「掘りたくないなら掘らなくていいって……いいから死なせてくれよ……。利用ばっかされるこんな世の中で生きていたくない……」

 はてさて、二人の様子を見守る洋館の住人達はと言うと。
 当初こそ安否の声を漏らしていたものの、すっかり見慣れた光景に今では破顔すらする始末であった。
 時にチェシャー・キャットなどは、笑いながら二人の周りをぐるぐると回っている。

「またやってるね、それ楽しい? ねえねえ、楽しいの?」

 ……などと宣いながら、ぐるぐると回っている。
 涙目の獣人、死にたいと呟き続けるコックリさん、そしてそんな二人の周りを回るチェシャー・キャット。
 一見シュールではあるが、これもまた洋館の日常の一コマに過ぎないのだった。




2017/12/16
楽しいわけないじゃないですかぁ!

三狐。さん宅、愛乱狐狗狸・眠爛狐狸さんお借りしました。
都合よく呼び出しててごめんね!


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