はらりと花弁が散った。花そのものからではない。眼に映る男の指先から、散ったのだ。
ハンマーシュミットはわずかに目を見開き、閉口する。口頭で聞いたことはあったものの、いざ事実を前にするとかけるべき言葉が出てこなかった。
男は少しばかり眉根を下げる。よほどひどい顔をしてしまっているのだろう、次いで「心配をかけてしまったね」と口を開いた彼の瞳は、慈愛に満ちていた。
「っあ、」
「けれど、そう悪いことじゃないのさ。この呪いはね」
ふ、と唇の端を上げて微笑む男の優しげな表情を横目に、ハンマーシュミットは微かに息を吐く。
「ただの血なら怯えてしまう人も多いけれど──ほら、これなら、綺麗だろう?」
はらはらと床に落ちていく花びら。真っ赤なそれは薔薇を彷彿とさせる。実際ハンマーシュミットも、彼の指先から散ったものを見た時、内心血液ではなくてほっとしていた。
子猫ちゃん、と動く唇をぼんやりと眺めながら、獣人は口角を下げる。
(綺麗とか綺麗じゃないとか、そういうんじゃなくて)
貴方の体に傷がついた現実は、そこに確かにあるのに。
ハンマーシュミットの視線はおぼつかない。地に落ちた花弁を見ては顔を上げ、男の眼差しに気圧されては下を向き、かといえば横に泳いで。
伝えたい言葉を、たどたどしい足取りで探し求めている。
「え、ぅうう……えと、あのですね、ちょっとだけ……あああ……言いたいことがあるので言いますが」
「うん、何かな?」
微かに空気が冷たくなった気がした。
「お体は、大切になさって……くださいね」
にこり。破顔した墓守を前に、男は一瞬ばかり言葉を失う。
「……もちろん、子猫ちゃんがそう言うなら」
──男に亡霊が絡んでいることを知るのは、ハンマーシュミットのみだった。
2017/12/16
もしも貴方が死んでしまったら。
森梓音さん宅、ロスカスターレさんお借りしました。
以下、分かりづらいので補足。
傷ができる→それが原因で死んでしまうのでは?(過保護かつ過干渉な加害妄想)→そうなると貴方まで自分の支配下になる→それは嫌だ(家族として仲良くしたい)→だから体は大切にね!(脅しで亡霊をちょっと絡ませてみる。ちょっとだけだから害はない。ただ冷たく感じるだけ)
という感じ。