贈り物
切崎は生前、孤独であった。もとより内気な性格が災いし、彼は幼稚園、小学校、中学校、高校のすべてを一人で謳歌することとなる。
もっとも、「あの娘」の存在があったから本当の孤独とは言い難いのではあるが、それでも彼が「あの娘」以外の人間と友好的な関係を持ったことがないのは事実に過ぎない。
そんな彼は悩んでいた。死後の世界で得た、初めての友達に贈るプレゼントをどうするべきかで四苦八苦していた。苛まれていた。
何せ今までに「友人に贈り物をする」経験をしたことがないのだ。どのようなものを贈れば喜ばれるのかがわからない。無難に彼の好きなものを手渡すべきか、と切崎は小さく唸る。
以前友人が欲しているものを聞き出すため、生徒会長を通して美化委員長から情報を得ようとしたものの結果は散々なものであった。既に知っているネタしか得ることが出来なかったこの有り様に切崎は思わずため息をこぼし、眉間に深いしわを刻んだという。
「……マカロンでも、作ろうかな」
切崎の唯一無二の友人、五月女緋色は大の甘党だった。中でも抹茶系統の菓子類を好んでいる。
友人であれば誰でも知り得るこの知識を生かして、切崎は抹茶ベースのマカロンを作ろうと思い立った。
「材料買うお金は……ああ、あったあった」
独り言を呟きながら、切崎は自室で自身の財布の中身を見るとほっと一息つく。作ろうにもその材料を手に入れることが出来なければ話にならない。
切崎は片手に横長の黒い財布を握り締め、再三ため息を吐くと玄関へと足を踏み出した。
「…………作りすぎた」
洋菓子を作った経験はあれど、実のところマカロンは一度たりとも手にかけたことがなかったのが切崎の現状であった。
それ故失敗のことを視野に入れ、彼は多く材料を仕入れると早速制作に取り掛かったわけなのだが――失敗したとはいえ、元々買った材料が多過ぎたらしい、完成したマカロンの数は目を覆う程のものだった。
いっそこのままマカロンタワーの形にまで持っていこうか、と切崎は悩む。しかし作ったところで、これを持ち運ぶと他人の目が気になる。椿辺りが目を光らせて飛んできそうだなあ、と切崎は苦笑するとマカロンタワーの案を切り捨てた。
ならば、今この場で自らが食してしまえばいいのではないか。それが二度目に浮かんだ考えだった。
とはいえこの数を平らげるのは流石にきつい。椿に分けようか、いや、女子に贈り物をするのはいささか危険な香りがする。切崎は仄かに頬を赤らめながら首を振った。
その時だった、自室のベルが軽快な音を立てる。一体何事かと切崎は目を丸くして大袈裟に肩を揺らすと、静かに玄関の扉を開けた。
「ねえジジ、今暇? もしそうなら一緒に図書室行こうよ!」
「……なんでこのタイミングで来るのかなあ……」
目の前に現れたのは、五月女緋色その人である。露骨に不機嫌そうな表情を出した切崎の態度に緋色は狼狽えると、自身の頬を弱々しく人差し指で掻いた。
「あー……もしかしてお取り込み中だったりした?」
相手を不快にさせる節を見せる切崎の様子にも動じず、それどころかむしろ申し訳なさげに眉根を垂れた緋色はおずおずと顔色を伺う。彼がこんな性格であるから、我の強い切崎とも交友を持つことが出来ているのかもしれない。
切崎は唇をきゅっと噛み締めると、本日三度目のため息を漏らした。緋色はそんな切崎にひやりと肝を冷やす。切崎のような情緒が安定しない人間の対応にも慣れているのだろうか、次に来る言葉をそわそわと待ち望んでいるように見えた。
「うーん……そうだけど、もういいや。ちょっと入ってってよ」
「えっ!? いいって本当にいいの!? 大丈夫!?」
「大丈夫だから。緋色は大袈裟だね」
切崎は口元を緩めると、百面相をしている緋色に自室に入るよう促した。
こんもりと山のように積まれた抹茶味のマカロンを見たときは、どんな顔を見せてくれるのだろうか。
そのようなことを想像しながら、切崎は誘導する。最早贈り物になっているのかすらわからないが、本人に与えることが出来たならそれでいいか、と半ば諦観して。
友人の目が輝くまで、後三十秒。切崎がその友人に肩を揺さぶられて目眩を起こすまで、後四十秒。他のメンバーを呼んでお茶会を開くまで、あと――
2015/03/05
ギリギリだー!!二月お題「好きなもの」より、早乙女緋色くんお借りしました。
好きなものをおなかいっぱい食べられたら幸せですよね。
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