いっそ殺して欲しい。そう思わずにはいられないほど、ハクトにとっては屈辱的だった。
曇り空をそのまま塗り込んだみたいなコンクリートに横たわり、全身から血を垂れ流して息も絶え絶えの彼はあまりにも醜く、目も当てられないほどに消沈している。
そんな彼を見下ろす、金髪の男が一人。眉根を下げたままやれやれと首を振った男はハクトを見下げながら、血溜まりへと足を踏み入れる。
ハクトは呻いた。さながら獣の唸り声のような低い声色だった。男は少しばかり躊躇するも、しかしハクトへと歩み寄ることを止めようとはしない。
「君は無茶をし過ぎるんですよ、いつも、何事も」
男はそう言い捨てると、ハクトを抱き抱えた。ハクトは全身己の血を浴びている。刃物でこじ開けられたであろうぱっくり開いた傷口からは、既に乾き始めている血液の跡が出来上がっていた。
全くもって気に入らない状況だと、ハクトは内心舌打ちをした。男は金髪を揺らしながら、元来た道を引き返そうと踵を返す。自身の両腕にのしかかる野郎一人分の重量に、僅かばかり眉をしかめながら。
ハクトはこの男のことを、少なくとも好いてはいない。むしろ出来うる限り関わることを避けるほどに、苦手意識すら抱いていた。
青臭く、少年として未熟な考えを見透かすかのような男の態度がハクトは気に入らなかった。
自分が未成熟であることは理解しているつもりである。何しろ成人すらしていない、ティーンエイジャーと呼ばれるカテゴリに属する己が熟しているなどと自惚れる謂われはない。
けれど、どうにも、この男のやる事ばかりは好きになれそうになかった。
ハクトは異様な寒気を感じると思わず身震いした。男に対する悪寒でも、畏怖の念でも、嫌悪感からくるそれでもない。異能力を利用した際に生じる副作用が今まさに降りかかりつつあった。
血液を意のままに操れる、だなんてフィクションじみた己の力にハクトは自嘲すらする。その代償が、全身に降りかかる過度な冷気。例え身を焦がすほどの灼熱に放り込まれたとしても、この凍えは収まりやしないのだ。
「大丈夫ですか? 黒のボス」
本当に心配しているのかすら怪しい物言いに、ハクトはうんざりしながら目を閉じた。缶コーヒーでも買いましょうか、などとのたまう男の言葉を聞きつつ。
2015/12/03
尻の青いガキの話。