生活は充実。 何の不満もありません。 けれど、やっぱり違和感はぬぐえない。 眠れぬ夜 里に来てからというもの、眠れない日々が続いていた。 魘されることはなくとも、瞼を閉じても眠りに落ちないというのは辛いものがある。 今夜もまた、その眠れない夜だった。 「…大丈夫だよ。ただ眠れないだけだから」 「(……)」 ミュウツーさんとフ―ディンさんが、ベッド脇に佇んで心配そうに私の顔を窺っている。 二人にこんな顔をさせるなんて、現代社会では考えられないことだっただろうな。 けれど、十年近く一緒に居れば、もう家族も同然。 今では、私が唯一ちゃんと口をきける相手だった。 額にミュウツーさんの冷たい手が添えられる。 やさしい手つきのソレはするりと、私の頭を撫ぜると、そのまま後頭部へと降りて行った。 そして、不意に差し込まれたもう一本の彼の腕。 それは、ひざ裏に当てられていて。 「…ミュウツー、さん?」 「(……)」 ひょい、と静かに抱き上げられてしまった。 そして、ミュウツーさんはフ―ディンさんに待っているように告げると、そのまま私を抱いてどこかへとテレポートしてしまった。 え、どこへ… 「(……)」 「ここ、は?」 連れられてきた場所は見慣れぬ場所。 どこかひどく高い場所にいるようで、夜にも関わらずに辺り一面は、月明かりがひどく眩しかった。 それに、周囲は濃紺に包まれた世界で。 気のせいか星がやけに近く感じられた。 「ミュ、ツーさん、ここって空?」 「(……)」 ちらりと視線を送りながら訊ねれば、こくりと動かされた首。 どうやら、彼は空のと―――っても高い所に私を連れてきてくれたらしい。 眠気を誘う方法としては、まったくの正反対の作用を起こしかねない手段だったけれど、ミュウツーさんなりに考えてくれたみたい。 私は、ゆるりと頬を緩めると、ミュウツーさんの腕の中で蹲るように目を閉じた。 「(……)」 ふわりと、揺り篭に揺られるような感覚が襲ってくる。 顔に当たる夜風がとても心地よくて。 私は、波に呑まれるようにゆっくりと眠りに落ちていった。 久しぶりの眠りだ。 (「……」)