片恋フライデーナイト(爆豪)

うわー、まじかよ。
目の前の週刊誌に踊る“ヒーロー爆心地、熱愛発覚”の文字。
寄り添って歩く男女の後ろ姿の写真は少しブレていて爆豪くんとだれか女の人、ということくらいしかわからないけれど、当事者にはありありとわかる。
これは、紛れもなく、
「私じゃないですか」
先日高校時代の友人たちと久しぶりに飲みに行って、帰る方向が同じってんで爆豪くんが送ってくれたんだよね。
もちろん付き合ってもなければこの写真の後何もなかった。
普通に最寄り駅の改札でばいばいしてそれっきり。
全く、一緒に歩いてるだけで熱愛とか、週刊誌の記者さんたちも妄想が過ぎる。
そう思ってページをめくるとまた別の写真。
向かい合わせに立って爆豪くんの手が私の頬に伸びている写真。
これ、髪になんかゴミが付いてるから「じっとしとれ」って言われた時のだな。
上手すぎるタイミングでちゅー寸前みたいな甘い写真に仕上がってしまっている。
隣の写真は私の腰に添えられた爆豪くんの手が。
これは自転車が来たから「あぶねー」って引っ張られたときの。
おいおいおい、この週刊誌のカメラマン、何者?
タイミングよすぎでしょ。
限界の望遠レンズらしく私の顔がぼやけているのが不幸中の幸いだけど。
「これ、爆豪くん怒ってるだろうなー」
雄英時代からずっと目標にストイックな彼だから。
だから、私は好きになった。
この写真を撮られた帰り道は本当に天にも昇るような気持ち。
学生時代から未練がましく引きずる片思いを知った神様の恩情采配なんだと、ひとり心の中でガッツポーズをしていた。
だがしかし、大衆の目に触れる写真となると話は別。
嬉しいとか好きだとかそういう問題じゃない。
彼も、私も、プロヒーローなんだから。

兎にも角にも状況確認と謝罪の為に爆豪くんにメールしようと携帯を開いたら、
『今夜19時雄英の門』
と電報レベルの短文メール。
もちろんのこと渦中の彼からのものなので、了承の意を返信した。
私の、頭をもたげた邪な片思いを見透かされたようで、胸が痛い。

指定された時間の少し前に指定された場所。
青春時代を過ごしたその広大な校舎の前、腕時計に目を落としたちょうど約束5分前。
派手な赤いMazda RX-7が私の前にゆっくりと横づけされたのはその時。
「乗れや」
運転席に座ったまま身を乗り出してその長い腕で開けてくれたドアから助手席に滑り込む。
ああ、爆豪くんの匂いがする。
一気に身の置き所がなくなる。
「出すから、ベルトしろや」
もたもたしながらなんとかシートベルトを締めると驚くほど滑らかに車は進み始めた。
窓の外は夜に沈んでいく景色。

やがて車は高速道路に乗り入れた。
「…どこ行くの?」
「あー、とりあえず落ち着いて飯食えっとこ」
ハンドルを指でとんとんっと鳴らしながら前だけ見つめて爆豪くんは言う。
車に乗ってから、一度もこちらを見ない。
私はそんな横顔をそっと盗み見ながらイグゾーストノートに耳を傾けた。
BGMはない。
車内を満たすふたりと一台の呼吸の音。
この状況は一体なんだというのか。
私と爆豪くんは高校の同級生で、付き合ってるわけでもなんでもなくて、でも週刊誌にすっぱ抜かれて。
私は、眠らせてた片恋を明るい場所に引っ張り出された。
ふたりで車に乗って、夜の高速をひた走って。
今だけは私、『爆豪くんの女』って顔してても罰は当たらないのだろうか。
一生来るはずのないチャンスだから、楽しんでしまってもいいのだろうか。
高速わきの照明が私を置き去りに流れていく。

一時間ほど無言のドライブの末たどり着いたのは海沿いの立派な門構えの和風建築。
門の前に静かに車を横づけすると着物の女性が数人建物内から小走りで現れる。
「お待ちしておりました、爆豪様」
頼むわ、と小さく言って車のキーを預ける爆豪くん。
「・・・料亭?」
「ここ、美味ぇ飯出すんだわ」
上司に連れてこられてから気に入っとる、なんて大人の男の顔で言って私の腰に手を回してくるから心臓が痛い。
廊下の作りも調度品もなにもかも素晴らしかったのに、腰に触れる手のひらのせいで何も頭に入らなかった。

案内された個室は広々としていて、新しい畳の香りが鼻をくすぐる。
そっと上座に座らされて、向かい側に座る爆豪くんとばっちり目が合った。
「あのさ、」
「あ?」
「こんな高そうなとこ連れてきてもらっても、私払えない…」
「ふっざけんな、誰が払わすかよ」
女に財布出させるようなつまんねぇ男に見えっか?って片頬を引き上げるから、大人しくこの非日常を楽しませてもらうことにした。

「で、今日の呼び出しってやっぱり、あの記事?」
「まぁな」
ひとしきり食事も終えたところで私から切り出してみた。(ちなみにお料理はどれも大変美味でした!会計怖い)
「ごめんね、私が送ってもらわなきゃあんな写真…」
「あぁ、それに関しちゃ別になんとも思っとらんわ」
ずきん、と痛む胸。
興味なさげに吐き捨てられた「なんとも思っとらんわ」の一言に予想以上に傷つく私がいた。
「そっか、でも、なんか、熱愛とか変な記事になっててごめんね」
熱愛でもなんでもないのに、迷惑、だったね。
無理やり笑顔を作ってもう一度謝る。
胸が痛くて、爆豪くんの顔が全く見れなかった。
「っざけんな、迷惑だったら今日こんなとこ連れてこんわ」
小さく笑う声。
で、うるはチャンよ、
「あの写真、よく撮れとったろ?」
「…?」
うるはの顔、はっきり写らんように、
「俺が、撮らせたからな」
…は?
今、爆豪くんは何と言った?
俺が、撮らせた?
「…どういうこと?」
「あの場に記者がいるのわかっとった」
「…はい?」
「鈍いな、お前。あの記事自体、所謂ヤラセってやつだ」
こうでもしないとお前、気付かんだろ?
「あの記事、現実にする気ねぇか?」
うるは、なんて名前まで呼んでくるから。
「ちょっと待って、いまいち状況がつかめない」
「んな必要ねぇよ。お前に必要なのは、」
はいかYESかの返事だけだっつーの。
自信満々に笑うから、私はただ阿呆みたいに肯くしかできなかった。

「うざってぇ週刊誌抱きこんだ甲斐があったわ」
そう、にやりと右の口角だけ引き上げて笑う悪い笑顔で爆豪くんは私の顎に手をかけてくる。
「俺のもんになれや」
返事などわかりきっているとばかりに唇に噛みつかれた。

ねぇ、キミそんな外堀から埋めるようなタイプだったっけ?
大人になって、狡猾さを覚えたというの?
ああ、違う。
自信満々の態度のわりに不安に揺れる瞳。
この人は高校生の時から変わっていないんだと。
大切を大切となかなか言い出せない不器用さはそのままなんだと。
嬉しくなってしまったので、見え見えの罠を張った彼に落ちてみることにした。

金曜日の夜は更けていく。





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