プロローグ__5話
・プロローグ
?「まさか……!?」
?「……やれやれ、だな。」
?「はぁ、はぁ……どういうことだ……?」
?「ヒヒ……」
?「もっともっと……ドラマチックにいこうぜ?」
?「てめ、なんだよ、それ……っ! やめろっ!!」
……《ワールド・コード》が動いた。
だが……俺はその運命に、決して隷従しない。
拓く未来を以て、終わる世界をはじめよう。
今日と同じ、赤い星の下で。
第1章/第1話 目覚め
これは「強化合宿施設」ができる前の、ずっと前のお話。
あなたがヒーローと出会う前の、初めの記憶。
……ガタン。
頭に、強い衝撃を感じる。
じんわりと、思考と感覚が一致してくる。
遠く、どこかから音のようなものが聞こえてくる。
?「……えぇっと……。」
?「……あの、聞こえてますか?」
?「@@さん。目を覚ましてください、大丈夫ですか?」
→目を開く
バケッシュ「ッシュ! 目が覚めたッシュね!」
神ヶ原「@@さん、わかりますか? 僕です、神ヶ原衛です。」
神ヶ原「急にガレキが落ちてきたんです。大きなケガはないようで、良かった……」
神ヶ原「やっと見つけた優秀な《指揮官候補》さんを、こんなところで失うわけにはいきません」
神ヶ原「何せ、いずれあなたには《指揮官》になってもらい、ヒーロー全体の管理・指揮を頼みたいのですから」
神ヶ原「ふふふ……わかりますね? ここで倒れられたら、僕が困るんです!」
神ヶ原「……さあ、あまり時間もありません。急いで先に進みましょう!」
神ヶ原「南地区で現れた《イーター》は、《白星第一学園》の方角に向かったようです」
神ヶ原「指揮官候補であるあなたの仕事は、ヒーローたちの活動を見守ることです」
神ヶ原「ですから、手始めに見に行きましょう。白星第一学園の《ヒーロー》たちが戦う姿を!」
神ヶ原「……もしかしたら、ほかの学校のヒーローにも会えるかもしれませんよ?」
――白星前
三津木「3,7……いや、6を入れて……」
?「はっ!」
?「せいっ!」
三津木「……ん? あれは……?」
特訓中の学生「行くぞっ!」
特訓中の学生「おうっ! はじめっ!」
三津木「あれは…………なんだろう?」
三津木「あ……ここ、白星第一学園の前なんだ。さすが、大きくてきれいな学校なんだなぁ」
三津木「ってことは、あれがヒーローとして活躍してる、白星第一学園の生徒さん……かな?」
三津木「……おっと、いけない。数学パズル本を解いてる途中だった」
三津木「集中しなきゃ……ええっと……6,9,15だから、また6になって……」
特訓中の学生「声が小さいぞ! そんなんで、白星のヒーローが務まると思ってんのか!?」
三津木「し、集中……を……」
特訓中の学生「はいっ!!!!」
三津木「……ダメだ。すごい存在感だな、あの人たち」
三津木(白星はたしか、スカウト入学が主体で、各分野の天才ぞろいの人気校なんだよね)
三津木(すごいな。うちの《崖縁工業高校》なんて、定員割れだったのに)
三津木(……なんて、比較するのも失礼かな?)
三津木(こういう学校に通う、すごい人たちのために、僕は、僕にできる人生を頑張ろう)
三津木(頑張り続ければ……いつかきっと、誰かの役にたてるよね)
三津木「……それにしても」
三津木「新聞で見たことのある白星のヒーローと、なんだか、見た目が違うような……?」
――轟音が響く
三津木「わ、わあっ! な、なんの音!?」
アナウンス「緊急避難指示:城海区 天之。
イーターの出現が予想されます。すぐに、地下シェルターに避難してください。」
三津木「えぇっ!? イーターが……ここに!? そんな、予報はなかったはずなのに……!」
逃げ惑う生徒「どけっ!」
三津木「いたっ!」
逃げる学生「邪魔だよ、のろま! イーターが出たんだぞ! あとはヒーローに任せて、お前も逃げろ!」
三津木「ヒーロー……って……うぐっ!」
逃げる学生「どけ、邪魔だ!」
――暗転
三津木「……う……いたた……。どうしよう……どっちに避難すればいいのかな……」
三津木「目を覚ましたら、周りに誰もいないし……天之のシェルターの位置、知らないし……」
アナウンス「城海区 天之 住民避難完了。
ヒーローは、指定地域に配備してください。」
三津木「え、ええっ!? ま、待って、避難完了してない! だ、誰か……!」
三津木「……だ、誰も、いない……んだよね……。さっきまで校庭にいた、ヒーローの人たちも……」
三津木「どうしよう……とりあえず、歩いて……」
イーター「グァアアアッ……!」
三津木「い、イーター……ッ!!」
三津木「こ、こんな近くで見たの初めてだ……! 逃げなきゃ……っ!」
イーター「グアアアアッ!!」
三津木「うああっ!!!!」
三津木「ダ、ダメだ……」
三津木「僕ひとりじゃ……逃げられない……」
三津木(こんな、誰もいない場所で……誰にも気づかれないまま死んじゃうのかな、僕は)
三津木(そんな、もんかな……)
イーター「グアアアアッ!」
三津木「もう、ダメだ…………っ!!」
――イーター消滅
三津木「……えっ!?」
静かな少年「……やっぱり、まだ人がいたんだね」
静かな少年「間に合って、よかった」
第1章/第2話 不思議な少年
静かな少年「……まだ、人がいたんだね。間に合ってよかった」
静かな少年「君は、白星の《候補生》のヒーローに避難誘導をされなかったの?」
三津木(この青い戦闘服に、白いマフラー……何度かテレビで見たことがある)
三津木(そうだ……この戦闘服こそ、白星第一のヒーローだ!)
静かな少年「ん……もしかして、僕の知り合いの人、かな?」
三津木「え? あっ、ジロジロ見ちゃってごめんなさい」
三津木「僕は他校の……崖縁工業1年の《三津木慎》です」
静かな少年「そう、ならいいんだ。変なこと言って、ごめん」
静かな少年「僕、去年より前の記憶がほとんどないから。知り合いかどうかがわからなくて」
静かな少年「三津木くん、か……覚えやすい名前だね」
静かな少年「僕の名前は《透野光希》。白星第一の1年だよ」
透野「君がミツギくんで、僕がミツキ。ね……だから覚えやすい」
透野「っと……ごめん、話は後にしたほうがいいね」
――イーターの攻撃を透野が防ぐ
三津木「ま、まだ新しいのが出てくるの!?」
透野「群れが出てるからね、下がって」
――イーターと透野の鍔迫り合いが始まる
三津木(光希くん、すごい……っ!)
三津木(これが白星第一のヒーロー……! 彼がいれば、もう安心だ……!)
透野「うーん、そろそろ時間なんだよなぁ……」
透野「一個、ポケットに入れっぱなしでよかった。そろそろ再接続しないと……っ」
透野「ありゃ、《リンクユニット》が……」
三津木「ん、何か光希くんの方から転がって落ちてきた……」
三津木(……石? 何か大事な物かな……? 急いで拾って、光希くんに返してあげないと……!)
三津木「あの、光希くん。これ……!」
――石が光る
三津木「……!? わわわ、何、この光……!?」
透野「あれれ、その光は……。君、もしかして……」
――制服姿に戻る透野
透野「あ……しまった。リンクが切れちゃった」
三津木「……! 光希くん、後ろっ!!」
透野「……くっ!! しまった……!!」
――突如イーターが消滅する
三津木「……えっ!?」
透野「あれ……イーターが倒れたね。白星の誰かが、応援に来てくれたのかな?」
三津木「よかった……でも、いったいどこから?」
?「イーッヒッヒッヒッヒ……」
透野「この声は……?」
――ビルの屋上にふたりの影
三津木「あれは……応援に駆けつけてくれたヒーロー!?」
風変わりな少年「へぇ、悪くねぇもんを見つけちまったな。どう考えたって、運命的で、ドラマチックだ」
風変わりな少年「おい、喜べ。そこの赤サビ色の制服を着た、メガネのモブキャラ」
風変わりな少年「石を手にしたときの光を覚えているか? あれは、お前が《地球の運命に選ばれた》証拠だ」
風変わりな少年「……だからこそ問うぜ、モブキャラ」
風変わりな少年「お前は、『我が校』のヒーローになることを望むか?」
三津木「えっ……ヒーローって……! まさか僕が『白星第一』のヒーローに!?」
風変わりな少年「『白星第一』……だぁ?」
風変わりな少年「……とうっ!」
――ふたりが三津木の前に飛び降りる。
三津木「緑の、マフラー……? 光希くんと違う戦闘服……」
風変わりな少年「白星第一なんざと一緒にすんじゃねぇよ」
風変わりな少年「オレたちぁ『崖縁工業』の生徒……所属は《機械人体強化科》だ!」
三津木「崖縁工業って、う、うちの学校!? 機械人体強化科に、ヒーローがいたの……!?」
風変わりな少年「定員割れの弱小校、通称《崖っぷちの崖縁》なら、お前ごときでも、即レギュラーだ」
風変わりな少年「今なら、春の人体オーバーホール祭りも開催中だぜ?」
三津木「え……いや、そんな……。あの、僕なんかがヒーローだなんて……」
透野「……三津木くん、他人事みたいに言うなんておかしいな」
三津木「えっ?」
透野「僕のリンクユニットが君に反応したってことは、君に、ヒーローとしての適性があるってことなんだ」
透野「だから……あとは、君が選ぶかどうか……だよ」
透野「……それじゃ、もう行かなきゃ。いつか戦えるといいな、君と一緒に」
三津木「ぼ、僕が、一緒に……?」
透野「さて……リンクユニット、もらっていい? さっき君が拾ってくれた、石みたいなやつ」
三津木「あ、ごめん……! これだよね、はい」
透野「ありがとう。きっと、また会おう。覚えておくよ、三津木くん」
――透野がリンクユニットを割る
三津木「わあ……そうやって変身するんだ」
三津木「僕も……選べば……」
風変わりな少年「チッ、スカウト中に邪魔しやがって。そんで、そこのモブ。お前、所属は――」
三津木「あの……すみません。僕、ヒーローのこと、あまり知らなくて……」
三津木「……僕、運動神経はないし、喋るのも下手です。特技は数学とか電子工作とか、多分そのくらいです」
三津木「なので……聞くだけ……。聞くだけ、聞いてみたいんですけど」
三津木「あの……! ヒ、ヒーローって! どうやったらなれるんでしょ……あいたっ!!」
風変わりな少年「……ハハァ。勢いあまって勝手に転びやがった。見た目どおり、文字どおりの腰抜けだな」
浅桐「……まあいい。オレの名前は《浅桐真大》」
浅桐「忘れんじゃねぇぞ。お前のこと、セカイを救うヒーローにしてやる、天才の名前だ」
三津木「……え? あの、なんで、僕に、銃口を向け……」
三津木「あれ、待ってくださ……ちょ、わあぁーーっ!?」
第1章/第3話 人体強化
三津木(まぶたが重い……。なんだか、いやな夢をみる気がする)
三津木(チャイムの音が聞こえる。多分、これは、小学生の頃の……)
なあなあ、今日はうちに集まって、みんなでオレンジャーの最終回見ようぜ!
ちょっと待てよ、みんなってさ……あいつも誘うの? 三津木。
え、あいつ今日学校いんの? 今週、全部休んでたじゃん。
……今日はいるんだよ、ほら。
うわ、気付かなかった、ホントだ。
……ま、別にどっちでもいいよ、オレは。
だってあいつ……
いてもいなくても、変わんねーもん。
三津木(なんでもない、何者でもない、空気だったころの僕の記憶)
三津木(もし、その何者でもない毎朝から、抜け出すことができるなら)
三津木(誰かにとって、必要な自分になれるなら……)
――暗転。
三津木(……あれ、ここは?)
神経質な声「ヘイ、宗一郎。コンデンサ取って」
落ち着いた声「……そこ、ネジがゆるいんじゃないか?」
三津木(体が動かない……金縛りみたいだ。頭は起きてて、体は起きてないってやつ、かな?)
三津木(……そうだ、僕は白星で襲撃に巻き込まれて、それで、銃を持った浅桐さんって人に……)
神経質な声「なに言ってんだ。オレぁ天才強化技師だぜ?」
三津木(撃たれて……。って、あの人は《強化技師》だったのか……!)
三津木(強化技師っていうのはたしか、人体を工学的に強化してもいい人……だったはず)
三津木(もしかして僕、ヒーローの強化手術中なのかな? だ、大丈夫かな、だいぶ不安だけど……)
落ち着いた声「ふむ、とはいえ、さすがに雑というか……」
神経質な声「素人は黙ってろって…………あっ。」
落ち着いた声「おお……」
神経質な声「…………」
落ち着いた声「…………」
三津木(…………)
神経質な声「3秒ルールだ、大丈夫だろ」
落ち着いた声「そうか」
三津木(本当だろうか……)
神経質な声「フン、あとはこのジャンパー線を繋げて……」
落ち着いた声「電圧の抵抗は、それで足りるのか」
神経質な声「ハァ……お前さァ。さすがに、それは…………」
神経質な声「言うのが遅ェわ」
ドカーーーンッ!!
三津木「わああああ!?」
三津木「ぼ、ぼ、僕の強化、失敗ですか!?」
三津木「って、あれ……? 僕の体は、なんともない……」
戸上「…………」
浅桐「……チッ、また失敗か。お前で試しといて正解だったな。何せ頑丈だ」
落ち着いた少年「ふぅ……三度目だな」
三津木(よくあるんだ……)
落ち着いた少年「……浅桐、見てみろ。今の爆発音で、彼が起きたようだ」
浅桐「あぁ?」
浅桐「やれやれ、長ぇことスヤスヤ寝たもんだな。お前の強化は終わってるっつーのによ」
三津木「えっ! もう、終わってるんですか!?」
三津木「人体強化っていうから、てっきりもっとロボットっぽくなるのかと……」
浅桐「フン、いつの時代の話をしてんだ。腕が良けりゃ、人体強化なんて傷跡も残んねぇさ」
落ち着いた少年「君のことは、調べさせてもらった。崖縁工業高校1年、電気通信科の三津木慎」
落ち着いた少年「3年前のヒーロー適性を調べる《血性調査》を、君は受けていないようだな」
落ち着いた少年「親族にも適性者はナシ……。だが今、君の血性はヒーローとして充分だ」
戸上「……おっと、自己紹介を忘れていたな。俺は3年の《戸上宗一郎》だ」
浅桐「ちなみに、オレぁ2年。留年したから、二度目だがな」
三津木「……えっと、崖縁のヒーローって、何人くらいいらっしゃるんですか?」
浅桐「今までは3人だったが、お前が入るなら4人だ。4というのは、自然数で、整数で、その上忌み数だな」
三津木「僕が、入るなら……」
三津木「あっ! あの……そういえば……! いったい、僕はどんな人体強化を……?」
浅桐「ヒヒヒ……よくぞ聞いてくれたな」
浅桐「お前に与えた強化能力は……空気を変えることだ!」
三津木「k、空気を……!? 風使いとか、そういうやつですか……!?」
浅桐「いや、切り忘れたエアコンを切ることが可能だ」
三津木「なるほど。エアーコンディションのほう、ですか……!」
浅桐「…………そうだ!」
戸上「浅桐、変に戦ってないで、説明をしてやってくれ」
?「なんだか、時間がかかりそうだし……。こっから先は、僕が話そうか」
神ヶ原「@@さんの紹介も兼ねて、ね」
バケッシュ「ッシュ!」
第1章/第4話 ヒーロー登録の前に
神ヶ原「ここから先は、僕が説明しよう。@@さんの紹介もしたいしね」
神ヶ原「三津木慎くん……だったね。はじめまして、僕は神ヶ原衛。永遠の29歳だ」
三津木「永遠……!」
浅桐「流せ、新人。センセーの発明した『ボケないでボケるボケ』だ」
三津木「先生……?」
神ヶ原「はは、あのね。僕は浅桐くんが小学生のころの、理科の先生なんだ」
浅桐「教育実習だがね」
神ヶ原「そう。当時は学校の先生になりたかったんだけどね。いろいろあって、諦めてしまった」
神ヶ原「今は《ALIVE》っていう会社で、研究員をしているんだ」
神ヶ原「で、こちらは@@さん」
神ヶ原「ALIVEから派遣された、指揮官候補の方だよ。崖縁のヒーロー活動の報告をしてくれる」
→よろしく
浅桐「……フン。指揮官じゃなくて、オレらの採点をする監視官だろうが」
神ヶ原「もう、またそういうことを言う……」
バケッシュ「ちょいちょい。バケットタイプアンドロイドT種、バケッシュもいるッシュ」
三津木「よ、よろしく……!」
神ヶ原「さて、自己紹介もそこそこにして……」
神ヶ原「みんな、白星での戦闘おつかれさま。僕たちも、状況は確認させてもらったよ」
神ヶ原「それで戸上くんたちは、三津木くんをヒーロー登録したいんだよね?」
戸上「はい、よろしくお願いします」
神ヶ原「じゃあまずは、ヒーローが扱う力について、解説が必要だね」
神ヶ原「……というか本来は、全部本人に説明してから人体強化をするべきなんだけどなぁ……浅桐くん?」
浅桐「ハ、結果は同じだろ」
神ヶ原「三津木くん、君は喰核生命体……通称《イーター》についてどのくらい知ってる?」
三津木「え、えっと、ずっと昔に隕石と共にやってきた、謎の生命体、ということしか……」
神ヶ原「そうだね。彼らの出現はあまりに突然で、まさに『地球に起こってはいけない』悲劇だった」
神ヶ原「そこで地球は、その悲劇に対抗するため、新たな希望をふたつ生み出した」
神ヶ原「ひとつは、ヒーローが変身に使うアイテム……この《リンクユニット》の元となる結晶だ」
神ヶ原「そしてもうひとつは、君のような特別な血性を持った少年たちだ」
神ヶ原「リンクユニットは、その特殊な『血』に作用するんだけど……」
神ヶ原「すでに君は、白星第一でリンクユニットに触れていると聞いたよ」
三津木「あの、光希くんが落とした石……! そういえばあの時は手を怪我していて、血が……」
神ヶ原「そう。リンクユニットを割って、血に取り込むことで、ヒーローはイーターと対抗する力を手に入れるんだ」
神ヶ原「一回の効果は短めになってる。長い時間使うと、貧血になっちゃうからね」
神ヶ原「……はい。これは君のために用意したリンクユニット。これを割れば、君もヒーローになれる」
三津木「は、はい。ありがとうございます……!」
神ヶ原「……でもね、三津木くん。これを使う前に、確認しなきゃいけないことがある」
神ヶ原「……というか、本来はこれも本人に確認してから強化手術をするべきなんだけど……浅桐くん?」
浅桐「だぁから、結果は同――」
?「ちょっと、待てぇっ!」
浅桐「っと……うるさいのが来たねェ、また」
朱髮の少年「三津木慎をヒーローにするって、マジですか!?」
戸上「ふむ……まさか三津木は、《佐海良輔》と知り合いなのか?」
三津木「…………良くん!?」
佐海「ま、マジだ。小学校の卒業以来か? 慎……!」
第1章/第5話 リスク
佐海「わー……何年ぶりだよ、慎。身長伸びたけど、あんま変わってないな」
三津木「その制服……良くんも崖縁にいたんだ。同じ学校に通ってたなんて、知らなかった」
戸上「知り合いか?」
佐海「はい。小2でこっちに引っ越してきたあと、小学校が一緒のダチです」
戸上「なるほど。まぁ、気づかないのも無理はない」
戸上「俺たち機械人体強化科は、三津木の電気通信科と授業が被らないからな」
戸上「さらにヒーローとしての活動もあると、学校にいる時間も短くなりやすい」
三津木「……ってことは、良くんが崖縁の3人目のヒーロー?」
佐海「ま、そういうことだな」
佐海「浅桐さんから『三津木慎を強化して、ヒーロー登録する』って連絡うけて、慌てて止めに来たんだ」
佐海「まだ、神ヶ原さんの説明中だったろ? 間に合ったなら良かっ――」
浅桐「強化手術なら、3時間前に終わったぜ」
佐海「浅桐さんサイッテー!!! 戻せ戻せ!!!」
浅桐「そいつがヒーローになる方法を聞いてきたんだ。止める必要はないだろ」
佐海「慎が……!?」
佐海「ちょ、ちょっとお前、外出ろ!」
――場面転じて、校庭
佐海「お前、本当にいいのか? 体はもう大丈夫なのか? 昔は、あんな休んでたのに」
三津木「うん、中学くらいから大丈夫になったんだ」
佐海「そりゃ、良かったけど……。うーーーん」
佐海「気が良くてお人好し、真面目なコツコツタイプ。おとなしくて、体を動かすのは少し苦手……」
佐海「俺はお前みたいな市民のために、ヒーローになったんだぜ?」
佐海「なのに、なんでお前が戦おうとするんだ。遊びじゃねぇし、ヘタすりゃ死ぬんだぞ」
三津木「もちろん、大変なことだって分かってる。でも――」
佐海「……なあ、慎。ヒーローなんて、かっこいいもんじゃない」
佐海「俺たちヒーローが扱うのは、『地球を守るための力』だ」
佐海「……それがどういう意味か、わかってんのか?」
三津木「地球のために戦うってこと……じゃないの?」
佐海「……そう思うなら、試してみろよ」
佐海「リンクユニット、神ヶ原さんい渡されてるんだろ?」
三津木「……うん」
三津木「これを、割ればいいんだよね……? えいっ!」
――リンクユニットを割る
三津木「う、わっ! なに、これ……!」
佐海「今、お前は地球と《リンク》した。そんで、その力を使えるヒーローになった」
佐海「めちゃくちゃ気持ち悪いだろ。でも、絶対に俺の声を聞いてろよ」
佐海「耳をふさいで、考えるのをやめて、そのまま目をつむる……なんてことは絶対にやめろ」
佐海「地球とつながっている間に『自分』を見失うと、魂が地球に飲まれちまう」
佐海「そうすると、二度と『こっち側』に帰ってこれない」
佐海「そうすると、ヒーローは……魂のない肉体になる」
佐海「……慎、わかるか?」
佐海「『地球を守るための力』ってのはさ、人間であることを、保証してくれないんだ」
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