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【長編設定で入れ替わりネタ】


『クエスト:いたずらデビルを討伐せよ!』

 立ち寄った村から、そんな依頼を引き受けた勇者一行は、いたずらデビルがいる森へと捜索にきていた。
 いたずらデビルといえば、初期に勇者、彼女、カミュの三人で倒したこともあり、楽勝だろうと彼らは思っていた――……が。

「そう簡単にオレさまがやられるかよ!お前ら全員の魂をシャッフルしてやる!食らえ!いたずらビ〜〜ム!」

 ――!?

 奴はいたずらデビルでも上位のいたずらデビル。油断した彼らは、全員怪しい光のビームを浴びた。

 ………………

「あれ、なにも起こってない……?」

 勇者はそう口にするも、不思議なことに気づいた。
 鏡でもないのに、自分が目の前にいる……。
 それに自分の声も違って聞こえた。んん?と顔をしかめていると、皆の表情が驚愕なものに変わっていく。

「どうなってんだ!?」
「どうなってんの!?」

 ロウと彼女がほぼ同じに叫んだ。いつもと違う口調で。

「……待って。さっき魔物は『私たち全員の魂をシャッフルする』って、言ってたわよね」

 顎に指をかけ、冷静に言ったのはセーニャだ。

「ということはつまりじゃ。皆の中身がバラバラに入れ替わったということかのう」

 同じく冷静に、そしてロウのような口調でマルティナが話す。

「じゃあアタシの中には誰が入って、アタシは誰の中に入っちゃったの〜?」

 乙女な仕草とオネェ口調で話すのはカミュで……

「まぁっ、私はどうやらお姉さまの中に入ったようですわ!」

 最後にベロニカが、ニコニコとして言った。


「――まとめるとこうだ」

 皆が円になるように顔を突き合わす中、ロウが切り出す。

「オレはカミュで、ロウのじいさん中に入っている。で、勇者の中にいるのがお前だな?」
「うん。不思議な気分……」

 こくりと外見は勇者の彼女が頷いた。

「勇者はシルビアで、シルビアはオレか……」
「僕、シルビアの中に入ってたのか。どおりでいつもより景色が高く見えるわけだ」
「アタシは逆にいつもより景色が……なんでもないわ」
「…………」
「あたしはアンタの中ってわけね!身長が元に戻ったみたいだわ」

 彼女の姿のベロニカは、次いで本来の自分に目をやる。

「で、あたしの中にはまさかセーニャとはね」
「はい!お姉さまになれて光栄ですわ。私の中にはマルティナさまですわね」

 中身はセーニャのベロニカは、いつも以上に純真な少女に見えた。セーニャの姿で、マルティナは頷く。

「ええ。そして、私の中には……」
「わしじゃのう」

 何故かにっこにこで答えたマルティナ……の中のロウ。マルティナ(セーニャ)がちょっと複雑そうな顔をしたのを、皆は見逃さなかった。

 再度、皆は頭の中で確認する。

 勇者の中には、彼女。
 彼女の中には、ベロニカ。
 ベロニカの中には、セーニャ。
 セーニャの中には、マルティナ。
 マルティナの中には、ロウ。
 ロウの中には、カミュ。
 カミュの中には、シルビア。
 シルビアの中には、勇者――。

「見事にバラバラに入れ替わっているね……」

 勇者(彼女)が言った。

「ああ、早いとこあのいたずらデビルをとっちめて元に戻らねえと……」
「うん、向こうの方に逃げたから追いかけよう」

 ロウ(カミュ)とシルビア(勇者)がそろって頷く。

「でも、ちょっと新鮮で楽しくない?アンタは火の呪文は覚えていないけど、中身はあたしだと使えるのかしら?いろいろ試してみたいわ!」
「私もお姉さまの魔法が使えるんでしょうか?」

 彼女(ベロニカ)を見ながら、ロウ(カミュ)は、はあ……と呆れのため息を吐いた。

「これだからお子ちゃまは……」
「すみません、カミュさま。私ったら浮かれてしまい……」

 ベロニカの姿でセーニャはしゅんと落ち込んだため、普段まったく見ることがないベロニカのしおらしい姿に、うっとロウ(カミュ)は声を詰まらせる。

「いや、セーニャじゃねえ。ベロニカに言ったんだ。あ、こいつの中に入っているベロニカな」
「ふふん、カミュ。今のあたしにそんな態度とっていいのかしら?」

 彼女(ベロニカ)は、にやりといつもはしないような笑顔をしてみせて……

「私……じつはカミュのことは全然タイプじゃないの。ストライクゾーンから圏外中のド圏外。カミュが作るご飯は好きだけど、それだけっていうか……。仲間止まり?そもそも好きなタイプはもっと紳士的で〜〜」
「お前……!あいつの顔で傷つくことを言うんじゃねえ!!」

 冷ややかな目をし、普段の彼女の口調を真似て辛辣なことを言った。本来の彼女じゃないとわかっていながらも、ロウ(カミュ)はショックを受けた。ガーンと地面に手をつき、グサグサと刺さった言葉は、じわじわとHPを削っていく。

「――……ちゃんじゃなくて、ベロニカちゃん。その辺りにしてあげましょう。カミュちゃんのHPは残りわずかよ!」
「シルビアもオレの身体で乙女はやめろ……!」
「あら、乙女なカミュちゃんもステキだと思うけど……ウフ♡」

 パチンとカミュの姿でウインクしたシルビア。ぐはっ。自分からのウインクにロウ(カミュ)は100のダメージ!
 残りHPは1で、あと一回攻撃を喰らえば、棺桶行きだろう。

「これ、カミュよ。わしの身体を大事にせんか」
「オレのせいじゃねえ……」
「ロウさまも念のために言いますが、くれぐれも私の身体で変なことはしないようにお願いしますわ」
「姫よ、手厳しいのう〜」

 瀕死の自分の姿を見ながら言ったマルティナ(ロウ)に、すかさずセーニャ(マルティナ)が釘を刺すように言った。
 やはり、異性が自分の身体に入っていると(特にムフフのロウ)落ち着かない。

「……はっ!勇者、私も変なことはしないから安心してほしい」
「いや、全然心配してないよ」
「でも、大剣は持ってみてもいい?」

 勇者(彼女)の言葉に、シルビア(勇者)はそれぐらいもちろんと快く頷く。

「勇者の身体だと大剣を扱えるの!」

 おりゃー!と、勇者(彼女)は大剣を振り回し、バッサバッサと草を刈っていく。

「危ないからむやみやたらに振り回すのはやめなさい」
「楽しそうだね」

 注意する彼女(ベロニカ)と、あははと微笑ましそうに見守るシルビア(勇者)。

「やーい、やーい!オレさまの恐ろしさを思い知ったか!マヌケ共め!」
「あ」

 ひょこっと木の影から現れたのは、あのいたずらデビルだ。どうやらそれを言いにわざわざ戻ってきたらしい。

「のこのこ戻って来やがって好都合だぜ!」
「待て!」

 ロウ(カミュ)に続いて、シルビア(勇者)も追いかけ……

「待てって言って誰が待つか!お尻ペンペーン!」
「なにアイツ!ムカつくわね!」
「皆!追いかけるわよ!」

 彼女(ベロニカ)、セーニャ(マルティナ)も続いた。ロウ(カミュ)はセーニャ(マルティナ)に話しかける。

「まずはオレの回復を頼む!HPが1しかねえんだ!セーニャ、じゃなくてマルティナ!」
「ええ、わかったわ」

 ……?身体はセーニャだが、マルティナは呪文の唱え方がわからない!

「とりあえず、あいつの足を止めるわよ!あたしにまかせて!」

 そう言って彼女(ベロニカ)は矢を取り、弓を構える。「一度、矢を打ってみたかったのね」と、矢を放った。

「僕も、シルビアのように鞭で戦ってみたい!そーれ!」
「あら!?何故か矢が後ろに!」
「うわぁ!何故か鞭が身体に絡まった!」

 うぉ!?
 ――後ろに飛んだ矢はロウ(カミュ)の足元に突き刺さった。咄嗟に足を引っ込めなければ、ブスッと足の甲に刺さっていただろう。

「おい!オレのHPは1だっつってんだろう!つーか矢が後ろに飛ぶってどういう技術だよ!勇者も遊んでないで真面目にやれ!」
「し、知らないわよ!勝手に矢が後ろに飛んでったのよ!」
「僕だって遊んでないよ!それより誰か助けてくれない!?」

 どうやら、身体と技術は別物らしい。

「鞭に絡まるアタシ……やだ、なにか目覚めそう!」
「オレの身体で目覚めんな!」
「ねえ、縄抜けビックリショーなんてどうかしら!?」
「すまねぇ健全だった!」

 つっこみまくっているせいか、ロウ(カミュ)のMPも減っていった。

「ここはわしの出番じゃな!」
「ロウさま?」

 勇者(彼女)がシルビア(勇者)を助けている横を、素早くマルティナ(ロウ)が飛び出す。
 自身の身体だったらできない身軽さだ。
 なんだか嫌な予感がするわ――とマルティナが思ったときには、時すでに遅かった。

「マルティナのおいろけスキル解、放!」
「なっ!?」

 封印していたスキルを勝手に……!
 しかも人がずっと貯めていたスキルポイントを使って……!

「そーれ、ぱふぱふ、ぱふぱふ……」

 マルティナ(ロウ)のぱふぱふに、いたずらデビルはうっとりしている。

「どうじゃ、わしのぱふぱふは。なかなかのもんじゃろう」

 ロウは得意気に言ったが、もちろんそれはマルティナのセクシーボディがあってこそだ。

「マルティナ、抑えて〜!」
「蹴りたい気持ちはわかるけど、ほら今は自分の身体だから!」
「それに今のマルティナはセーニャだから、大した攻撃力はないと思うわ!」

 勇者(彼女)、シルビア(勇者)、彼女(ベロニカ)の三人がかりで、怒れるセーニャ(マルティナ)を止める。

「ったく。どいつもこいつも……オレがいく!」

 カミュはロウとして爪を装備する。初めて扱う武器だが、ずっとロウの動きを見ていたのと、己の器用さもあり、使いこなせる自信はあった。

「……ッ!?」

 こ、腰がっ……!いつものように駆け出そうとして、足を一歩前に踏み出したところ、腰がぐぎっとなった。ぎっくり腰だ。腰を曲げたままロウ(カミュ)はその場から動けない!
 この時カミュは、若者と老人は身体の使い方が違うのだと知った。

「これカミュよ!わしの身体は大事にせいと言ったじゃろう」
「カミュ、HP1削れなくてよかったね……」
「アンタ、今きっと0.3ぐらいよ」
「HPって小数点あるんだ……」
「よくもカミュさまを!いきます……メラミ!」

 いや、いたずらデビルはまったく関係ないが、ベロニカ(セーニャ)は杖を向けて、呪文を唱える。

 杖の先から炎の玉が飛び出した。

「やりましたわ、お姉さま!私にもお姉さまの得意な呪文が唱えられました!」
「明後日の方向に飛んでいったけどね」

 彼女(ベロニカ)の言う通り、火の玉はどこか遠くの空へ飛んでいった。人に当たらなかっただけマシかもしれない。

「ひゃっひゃっひゃ!本当におマヌケなやつらだぜ!」
「笑っていられるのも今のうちよ!」

 くるくるとカミュ(シルビア)は宙返りしながら、二刀の短剣で攻撃する。
 シルビアはカミュの身体を完璧に使いこなしていた。

「いいわね……カミュちゃんの身体……。しなやかで、それでいて捻りもよくて……」
「お、おおい、妙な言い方は……!」
「空中ブランコにぴったりだわ!」
「すまねぇまたもや健全だった!」

 はああ――!

 ぐだぐだな中、重い斬撃がいたずらデビルを襲った。
 一撃だけではなく、ぶん回すように攻撃が炸裂する。
 ――勇者だ。中身は彼女なのだが、本物の勇者以上の猛攻っぷりだ。

「や、やられたぁ……!」
「まさか、あいつ一人で倒しちまうとはな……」

 やがていたずらデビルは倒れて、彼女(勇者)は、やりきったように大剣を背中に戻す。

「私……このままいけるかもしれない」
「どこに!?打倒魔王まで!?」

 僕より頼れる勇者かもしれない――勇者はちょっぴり危機感を覚えた。

「なんじゃ、もう倒してしまったんか。投げキッスやセクシービームも使ってみたかったのにのう……――いたたた!」

 そう残念そうに呟いたロウは、途中で元の自身の姿に戻り、痛む腰を擦る。
 いたずらデビルを倒したことにより、皆の魂が元の自分へと戻った。

「ロウさま……。元に戻りましたのでご覚悟を――!」
「ひっ、姫よ、待っとくれ!今のわし、ぎっくり腰で……」
「問答無用!」

 しょえええとロウの叫び声が森の中で木霊する。
 ――そして、マルティナの手によってロウは簀巻きにされた。

「わし、このまま村の中も引きずられていくんか?」
「おじいちゃん、自業自得だよね……」

 教会に行き、お色気スキルに使ったマルティナのスキルポイントを自分のおこづかいで戻すまで、ロウはそのままだった。


「なんだかんだ元の自分の姿が一番よね!」
「そうですわね。でも、お姉さまになれて楽しかったですわ」
「まったく、やれやれだったぜ……」
「カミュちゃん!一緒に空中ブランコしましょ〜♡」
「勇者、歩きながら大剣の素振りしてるの?」
「君の大剣さばきに触発されて……」
「この世界にダーマ神殿があれば、ピチピチギャルに転職して、わしが代わりにおいろけスキルを覚えるのにのう……」
「……ロウさま。その発言、ドン引きですよ」


 一件落着した勇者の一行の旅は、まだまだ終わらない。