最初に言っておく。これは俺、上鳴電気が最高のヒーローになる物語だ――。
「やっぱ、ヒーローかっけえー!!」
人混みの中から見上げたビルの上。見事敵を倒し、眼下の歓声に手を振るヒーローの姿が眩しく映った。
ヒーローの活躍を目にする度に、俺は自分に誓う。
(絶対、俺もヒーローになってやるぜ!)
いや、正確には俺はヒーローにならなきゃいけない。それは、幼い頃に交わした約束を果たす為に――……
「きみ、ヒーローをめざしているの?」
そう俺に話しかけた彼女は、目を見張るほどの美少女だった。ふんわりと微笑まれ、一瞬にして俺の心は奪われた。
そう、これが俺の初恋だ。
心を奪われた俺は「おう!」とか「うえい!」とか舞い上がって正直何て答えたかは覚えていない。
「ふぅん。じゃあわたしと反対だね」
「反対……?」
「だって、わたし。……敵になるから」
"敵"――確かにあの時、あの子はそう言った。今でもあれは聞き間違いじゃないかと考えるけど、間違いじゃないんだ。
「そういう一家なの」
「!」
「だからってきみが敵になることなんて」とか、とにかく必死に俺は否定した。俺の熱意が通じたのか、彼女は「じゃあ」と口を開き、
「もし、きみが本当のヒーローになったら」
――わたしを救けにきて。
そうどこか悲しげに笑った彼女に、俺は誓ったんだ。絶対、俺はヒーローになって……
「上鳴〜遅刻だぞー」
「いや、これぎりセーフっしょ!」
彼女を救うと……!
中学三年生になり、進路希望はもちろんヒーロー科だ。志望校は天下の雄英校と決めていた。
立派なヒーローになるにはぴったりの高校だと思ったからだ。
「上鳴……お前、自分の成績見てみろよ」
「言っちゃ悪ィが、お前、アホだぞ」
周りは無理だと言うが、それを超えてこそのヒーローだろ?俺はやってやるぜ!
「だめだこいつ聞いてねえ!自分が主役だって顔してるぞ!!」
雄英入試試験に向けて、それはもう頭がショートしながらも必死に勉強した。人生で一番勉強したんじゃないかと思う。15年しか生きてないけど。
その甲斐あって、何とか回答は埋めることが出来た。……うん。
そして、実地テストだ。プレゼント・マイクのラジオなノリの説明を聞きながら、心の中で「よっしゃー!」とガッツポーズをする。ラッキーな事に、内容は仮想敵こと、ロボットを行動不能にするというものだ。
俺の"個性"は《帯電》
体に電気を纏わせ放出できる。コントロールはできないけど、ロボに対しては十分だ。集まって来たロボにブッ放すれば良いだけなのだから。控え目に言って楽勝!
「オラァァ!!!」
実地テストが始まってすぐ、そんな声と共にどこからか派手な爆発音が聞こえてきた。音がした方へ振り返る。そこには、いくら体を動かしているとはいえ、真冬にタンクトップの男がもの凄い勢いで仮想ロボを破壊していた。(え、何アイツ。"個性"おっかねえ。つーか顔もおっかねえ)
――って、ぼんやり見ている場合じゃねえ!いくら楽勝とはいえ、とにかくPを稼がなくてはならない。俺はロボを探しにその場を離れる。
後半。バカでか過ぎる巨大仮想ロボが現れて……俺はその後の記憶がない。
たぶん、電力を使いすぎてショートしたんだと思う。気がついたら家に帰っていた。俺、すげえ。
気になる合否通知は一週間後だ。
実地はまあ、いい線いったと思う。問題は筆記試験だ。何とか回答は埋める事はできたから、後は答えが合っているかどうかだ。(頼む!ぎりぎりでも良いから合格してくれ!!)
「筆記は予想通りぎりぎりだったけど、雄英に合格したぜ!!」
「まさか、アホの上鳴が雄英に合格するなんて……」
「奇跡だよなぁ」
「一生分の運を使い切ったんじゃね」
「お前らまずはおめでとうの一言ぐらいないの!?」
何はともあれ、俺の高校生活は華々しいものだと決まった。プロヒーローへの第一歩。
待っててくれ、――なまえちゃん!
「行ってきます!」
季節は春になり、真新しい雄英の制服に身を包み、家を出る。足取りは桜の花びらがひらひら舞うように軽く。
雄英に着くと、ただっ広い校内を歩き、1−Aの教室を目指した。
(おお、ドアでけー。バリアフリーか)
横開きのドアを開き、中に入る。すでに登校していたヤツたちの視線に若干居心地悪く感じながら……まるで、吸い寄せられるように俺は一人の女子生徒に釘付けになった。
「――っ」
彫刻のように美しい横顔だった。俺の視線に気づいたのか、彼女はふとこっちを向く。
あの髪色、あの瞳の色、整った顔立ち。
間違いねえ。あんなとびっきりの美少女、他にいるわけがない。
「なまえちゃん……なまえちゃんだよな!?」
「……え」
慌ててその席まで駆け寄る。
「俺だよ!俺、上鳴電気っ!」
幼い頃に会ったと付け加えて、自分を指差し言った。
「まさか、雄英で再会するとかすっげー偶然!むしろ運命?……なんつって!……あれ、でもなまえちゃん、自分はヴィラ……」
「お友達ごっこだけでなく、ナンパもしたいなら他所へ行け」
俺の言葉を遮るように、低い声が後ろから響いた。振り返ると、そこには寝袋にすっぽり収まった、小汚ないくたびれた男が立っていた。ふぁ!?
男は担任の相澤消太と名乗り、ぽかんとしていると「早速だが、コレ着てグラウンドに出ろ」寝袋からゴソゴソと取り出したのは何故か体操服だった。
俺はそれを押し付けられた。え、俺がコレ着るの?なんか生暖かいんだけど!?
手に持つそれを心の底から嫌そうに見つめていると、肩をつんつんされる。振り向くとそこにはにっこり花のようになまえちゃんは微笑んでいた。
可愛い過ぎる。結婚してくれ。彼女は小さな口を開けて、小声で何か俺に伝えようとしているらしい。二人だけの内緒話?え、なになに……………
「わたしのこと、誰かに喋ったら……」
「喋ったら……?」
――殺す。
「…………え゙」
そのまま、俺の顔も思考も固まった。コロス?ころす?殺す??待て待て。こんな可憐な笑顔で彼女がそんな物騒な言葉を言うはずがない。きっとこれは空耳だ。
「っひぃ!?」
一瞬で彼女の顔つきが代わった。キッと睨まれる。暗く、鋭い瞳にぞくりと背筋に悪寒が走った。これが殺気だと本能で分かる。
恐ろしい事に、これまた一瞬で、すぐに彼女の顔は先程の可憐な笑顔に戻った。
「きみとわたしは"初対面"なのに、登校初日にあんな風にナンパするって……上鳴くん、慣れてるでしょ」
「あ……ご、ごめん!つ、ついなまえちゃんがあまりにも美少女だったからさ!」
ハハ、と唖然としながらも会話を合わせる。
『だって、わたし。……敵になるから』
今とは違う、あの日の幼い声を思い出す。
まさか、目の前の彼女は本当に敵に――。
……いや、だとしたら、なんでまたヒーロー校なんかに……?
(はっ!まさか……スパイ!?スパイなのか!?)
先程の「殺す」という脅し。……俺、やばくね?
(嘘だろぉぉ――!――!――!!?)
俺の華々しい学園生活に、暗雲が立ち込める。ここから、俺が美少女に命を狙われる学園生活が始まった。