決戦のバレンタイン

 2/14、バレンタインデー……それがいかに商業の陰謀だろうと、好きな人がいる身にとっては心強い味方だ。

 私の好きな人――緑谷出久くん。

 一見地味な彼だけど……優しくて、がんばり屋で、やる時はやるかっこいい男の子。
 困ったことは、彼はあちらこちらにフラグを立てているということだ。しかも無意識に。そして、乙女ゲーのヒロインも顔負けなほど。

(今日という日に本命チョコを渡して、私を意識してもらうの……!)

 緑谷くんはいつも放課後に自習鍛練をしているから、狙いは終わったタイミングだ。

 さあ、勇気を出して行くのよ、なまえ。

 気合いを入れて――綺麗にラッピングしたチョコを持って教室を出た。

「デクにチョコを渡すだァ?ざけんな!そのチョコ寄越せ!!」

【爆豪勝己が現れた!】
 
 さっそく現れた難関にしてラスボス級の彼の登場に戦く。
 幼馴染みの彼は、緑谷くんの言わばセコム――「てめェの解釈ぶっ壊れ過ぎてんだろ!?このイカれ女が!!」

 じりじりと対峙する。
 でも、私はこんなところで諦めない!

「っンな……!?」

 チョコを爆豪くんに投げ、意識がそちらに向いてる瞬間に――その横を稲妻のごとく(※本人談)走り抜ける!
 こんなこともあろうかと用意していたそれは、ダミーのチョコだ。緑谷くんに誤解されないようにちゃんと大きく「義理」と書いてある。

「ぶっ殺す!!」

 気づいて、爆発と共に爆豪くんが吠えた時にはもう遅い。私は次のステージへ。

 最初の最大にして難関を乗り越えたわ!
 だけど……

「ここを通りたくは大人しくチョコを渡すんだな」

【轟焦凍が現れた!】

 まさかの私の前に立ち塞がったのは、またしても最大級の難関だった。(ダミー作戦はさっき爆豪くんに使っちゃったし……轟くんの弱点は……)

「……轟くん、握手しよう」
「っ、俺はハンドクラッシャーだ……!それはできねえ……!」
「握手!しよう!!」

 轟くんが怯んだ隙に、私はその横を突風のごとく(※本人談)走り抜ける!
 よかった……轟くんが何故か自分をハンドクラッシャーだと思い込んでいて。

 二つの難関を越えた私に、もはや敵なしだ。

「チョコォ……チョコを寄越せーー!!」

【峰田実が現れた!】

 私は無視し、その横を通り抜けた。

「ひでえ!?少しは反応しろよおぉぉ!!」
「みょうじくん!廊下は走ってはならん!!」

【飯田天哉が現れた!】

「走ってません。早歩きです」
「……む。そうか、それは失礼した!」

 飯田くんを通り過ぎると、再び私は走る。

「そのチョコ……俺がいただくぜ!!」

【上鳴電気が現れた!】

 これは少し厄介……。目の前を立ちふさがる上鳴くんは電気をまとっていて危険だからだ。

 ここは……スマホを片手に召喚!!

「ウ…ウェ……」
「響香ちゃんっ、ありがとう」
「いいって。応援してんよ、なまえ」

 響香ちゃんに手を振り、私は先を急ぐ。

「そのチョコ、こっちに渡してもらおうか!」

【物間寧人が現れた!】

 まさかのB組からの刺客――これは予想外ね……。どうする?そう悩んでいると。

「邪魔すんなっての」
「うっ」
「拳藤さん!」
「ごめんな、うちの物間が」

 拳藤さんの手刀で物間くんは倒れた。あたしも応援してるよ、と拳藤さんにエールを貰い、私は緑谷くんの元を目指す。

「あっ、なまえちゃん!」

【麗日お茶子が現れた!】

 緑谷くんが立てたフラグの一人、お茶子ちゃん……!

「こっ、恋のライバル!?ちゃうよ!?私とデクくんはそんなんちゃうから!本当に!むしろ応援しとるから……!」

 必死に弁解して、お茶子ちゃんはそのまま走り去ってしまった。……?気になるけど、今の私には気にしている暇はない。早くチョコを届けないと――

「……!?」

 鋭い切っ先に、慌てて後ろに飛び引く。

「簡単に出久くんにチョコを渡させないよ!むしろ私にちょうだい!ついでに血もちうちうさせて!」

【渡我被身子が現れた!】

 フォークとナイフを向けてくるのはトガ先輩だ。
 緑谷くんがフラグを立てた一人で、中でも一番厄介な人……!

「――あ。ステイン先生」
「ステイン先生!?」

 トガ先輩がステイン先生に気を取られている隙に、私はダッシュで走り抜ける。捕まったらチョコだけでなく、血も吸われちゃう!

「フフフフ!みょうじさん!ここを通りたければ、私のドッ可愛いベイビーを試してください!」

【発目明が現れた!】

 彼女も緑谷くんがさりげなくフラグを立てた一人……だと思う。

「あとで必ず!」
「絶対ですよー!」

 ここは簡単に通りすぎる事ができた。

「あ、なまえちゃん!そのチョコって、もしかして……」

【メリッサ・シールドが現れた!】

 メリッサ先輩は緑谷くんが立てたフラグの中で一番驚異かも……!

「デクくんにあげるの?頑張って!」

 あ、あれ……逆に応援された。
 何はともあれ、目的地はもうすぐそこに……

「フフフ……よくここまでたどり着いたわね!」

 角から人影が現れる。その声は……!?

「ミッドナイト先生……!」
「幾多の妨害を乗り越え、よくここまでたどり着いたわ……!」

 まさか……、黒幕はミッドナイト先生だったというの……!?

「さあ、最終試練よ!」

 そう言って立ち塞がるミッドナイト先生。まさにラスボスだ……!
 どうやってこの場を切り抜けようと考えるも、何も手立てを浮かばない。いよいよ、神に祈るしかないかと考えていたら……

「あれ、ミッドナイト先生とみょうじさん?そんなところで二人で何をしてるんですか?」
「「(波動さん/先輩……!)」」

 波動先輩は私の手の中にあるチョコを見るや否や「それバレンタインのチョコ!?誰にあげるの!?ねえねえ!」質問責めをされる。

 困っていると、ハッと妙案が浮かんだ。

「波動先輩!ミッドナイト先生が大事な話があると……」
「私に?ミッドナイト先生、お話したいことってなんですか?」
「え?」
「大事な話って、とっても気になります!!」
「あ、いや……」

 ありがとう、先輩の好奇心!

 波動先輩に詰め寄って、ミッドナイト先生が戸惑っている隙に、私はこっそりとその場を離れた。
 いよいよ、このチョコを渡すべき人に渡す時がやって来た。

 まずは心の準備を――……

「……あれ、みょうじさん?そんなところでどうしたの?」
「〜〜ッッ!!」

 心の準備をする前に!

「ご、ごめんっ驚かせちゃった!?」

 驚く私に驚く緑谷くん。私はブンブンと首を横に振る。

「あ、あああの……み、み、みど……」
「う、うん。だ、大丈夫……?あの、まずは落ち着いて……」

 ど、どうしよう……本人を目の前にして、上手く言葉が。(緑谷くん、困ってるよ……!)

「もしかして、僕に用があった?」
「う、うん……!緑谷くん……!」
「は、はい!」
「私に勇気をください……!!」
「勇気!?」

 渾身の間違え!!あげる側の私が緑谷くんに勇気を貰ってどうする!?

「えぇと、僕が勇気を出す方法でよければ……。僕はオールマイトのことを考えると勇気が出るよ!」

 オールマイト……なるほど。

「私が……」
「っ?」
「チョコを渡しに来た!!」
「!?」

 ずいっと緑谷くんにチョコを渡す。
 …………あれ、これで合ってる??

「ぼ、僕に!?」
「っうん、緑谷くんに貰ってほしいの……!」

 驚く緑谷くんに、それはもう心臓が飛び出しそうになるほどドキドキしている。次の反応を待っていると……

「ありがとう……!これって、バレンタインデーのチョコ、だよね?すごく嬉しいよ!」
「〜〜っ」

 もしかしたら、緑谷くんは優しいから好意的に言ってくれたのかも知れない。でも、その笑顔が見られただけでも、私は渡せて良かったと思った。

「それで、よかったら……!」
「っ!」
「私にも、フラグを立ててくれると嬉しいなって……」
「フ、フラグ……?」

 まずはフラグから始めたいと……。

「クソナードがいっちょ前にフラグ立てるなんぞ100万年早えんだよ!!へし折ってやる!!」
「かっちゃん!?」


 ――フラグさえも立てるのに困難なんて!


「緑谷くんのセコムが強すぎる……!」
「だから違うっつてんだろッ!この勘違いイカレポンチ女が!!」



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