(バレンタインデー?クソくだらねえ)
そう思いつつも、黒目に押し付けられたチョコを仕方なく鞄の中に入れた。
クソくだらねえが、それよかさらにムカつく事がある。(本命チョコだぁ?)
だったらはよ渡して来いや!
「――え〜爆豪くん、私になにか用?」
帰り際。呼び止めると、クソテレポことみょうじはぬけぬけとそう言って来た。
「…ん」
片手を差し出す。
「?」
みょうじは不思議そうな顔をして首を傾げた。
こいつ、まだしらばっくれるつもりか。
「……本命チョコだよ。受け取ってやるから渡せよ」
先程、こいつの本命チョコがどうたらと話を聞いてすぐに分かった。
こいつが渡すなら、俺しかいねえだろ――と。
「爆豪くん」
「あ…?」
「君のその自信はどこから来るの?」
「アア!?」
何言ってんだ、こいつ。
てめェが俺に惚れてんのはバレバレだろうが。「爆豪くんが私のことを好きなのもね!」……うっせえわ。
「…私、もうチョコ渡したよ」
「…!」
……おいちょっと待て。俺は貰ってねーぞ。
「誰だ」
「すぐわかるんじゃないかな?」
「…半分野郎か!?」
「違うよぉ」
「じゃあデクか!?…あのクソナードぶっ殺す!!」「ちょっ、待って待って!でっくん関係ないから!」
俺が掌から爆破させる"フリ"をすると、こいつはやっと白状する気になったらしい。ったく。「いや、今の絶対本気だったでしょ…」
みょうじははあと呆れたようにため息を吐いてから(呆れてんのはこっちだわ)
何やら指差した。
「爆豪くん、鞄の中見てみて」
「…」
怪訝に思いながらも、言われた通りに鞄の中を見る。
そこには入れた覚えのない、ラッピングされた箱が。
…………………………。
「普通に渡せや!」
「驚かせようと思って〜」
相変わらずこいつの"個性"の使い方はなんなんだ。噂によると"個性"の師がいるらしいが、どういう教え方をしたのか。
その師とやらに間違ってんぞと教えてやりてえ。
目的を果たし「帰るぞ」と一言。
並んで歩く。
フェリー乗り場までは送ってやらんこともねえ。
「ホワイトデーのお返しは爆豪くんの手作りがいいな」
そう隣で、期待した声でみょうじは言った。
「手作りィ?」
「でっくんから爆豪くんは料理が上手って聞いたから」
………あのクソデクがァ!ほいほい俺の情報を流しやがって。(料理と菓子作りは別モンだろ…)
「てめェも聞きたいことがあるなら直接聞いてこい」
「じゃあ、爆豪くんは私のこと本当に好きなの?」
「……………そっちが先に言えよ」
「だって、爆豪くんは私の本命チョコ貰って分かったけど、私確証ないし」
「……………………」
「でっくんに聞いたら教えてくれるかなぁ〜」
「ヤメロ!!」
んなわけねーだろと思ったが、あの野郎なら、ブツブツとクソ真剣に考察してきそうで気色悪い寒気がした。
「………好き、だ………」
こいつと無駄な駆け引きをするのはクソ面倒だ。その労力と天秤にかけて、その選択肢を選んだだけのこと。
だから二度は……
「ごめん、今日は波が高いな〜って見てたら聞いてなかった!」
「…………………………」
マジでこいつザケんなよ!!?(人が下手に出りゃあ…………)
――その横顔を見て、面喰らう。
「…爆豪くんからのお返し楽しみだな〜」
(……ンだ、その照れ顔)
素直に可愛いなと思ったから、減らねえその口も今日は許してやる事にする。