3月3日――桃の節句、雛祭り。
本来は老若男女問わず、春を喜ぶ日だったらしい。現代は女の子の健やかな成長を祝うお祭りと定着している――のだけど。
「なんだィ?あの二人はもう酔っ払ってんのかい」
「私たち二人で楽しむとするかのぅ」
「今日は飲み明かすわよ〜!」
「春野さん!まだ真っ昼間ですわ!」
「芥川先輩!隣の女は!誰なんですかあ!!」
「ちょっと雛人形を人と見間違えるって、どんだけ酔ってるのよ!?」
「兄さんに見えるって人形に失礼じゃ……」
「「……………………」」
もはや、女の子のお祭りとは呼べぬ光景に、鏡花ちゃんと二人で引いた目で眺めていた。
せっかく綺麗な着物(鏡花ちゃんと色違い)を着させてもらって、ちらし寿司やケーキやらご馳走を食べて楽しいんでいたのに……。
「お酒って怖いんだね……」
たぶん、この中で一番、今日の主役であるだろう咲楽がぽつりと言った。
「そうだね。いつもは穏やかな春野さんが酔うとあんな風になるなんて……」
まさかの酒癖が悪かったとは。人は見た目にはよらないとはこのこと。
そして、樋口さんは泣き上戸だったらしい。
飾ってある雛人形のお殿様が龍くんに見えるらしく、隣のお雛様に泣きながらつっかかっている。
一言で言って末期症状だ。
「お酒がダメなんじゃなくて、ダメ人間をお酒が暴くって聞く」
鏡花ちゃん……一体どこでそんなことを!?
――最初は、紅葉さんが鏡花ちゃんのために大きな雛人形を買ったから見においで、と誘われ、どうせならひな祭りパーティーをやろうってなって……わずか数時間でこれだ。
「あら、私の眼鏡はどこに……」
「さっき自分で庭に投げ捨ててましたわよ……」
「さあ、銀!私のことはお姉さんと呼んでください!」
「え、えぇ……」
「お水もらってきたから、酔っぱらい二人は飲んで少しは酔いを冷まして!」
ナオミちゃん、銀ちゃん、ルーシーちゃんがそれぞれ二人の世話をしている。
ザルであろう与謝野先生と紅葉さんは、二人でしっとり飲んでるし……。
「……二人とも、庭を案内してあげる。桃の花が綺麗に咲いてるから」
冷静な口調でそう提案した鏡花ちゃんに連れられ、こっそり咲楽と庭に出た。
「わぁっ、本当に綺麗に咲いてるね」
「ピンクでかわいい〜!」
広い庭を歩くと、満開の桃の花を三人で見上げる。
「わたし、桜の花がいちばん好きだったけど、桃の花もかわいくて好きだな」
咲楽が笑いながら言った。同じ名前の、春を告げる花。「咲」くと「楽」しいの漢字には、きっとご両親の思いが込められているんだろうな。
咲楽のご両親は敵同士の交戦に巻き込まれて亡くなったと織田作さんから聞いていた。ヒーローは間に合わなかったという。
そして、運よく小さな咲楽だけが生き残ったと……。(きっと運じゃなくて、咲楽のお父さんとお母さんが――)
「部屋に飾ってある桃の花、持って帰るといい」
「本当に!?ありがとう、鏡花お姉ちゃん!」
「……!」
咲楽も、"お姉ちゃん"と呼ばれた鏡花ちゃんも二人とも嬉しそうだ。
「もう少し暖かくなったら、お花見もみんなでしたいねっ」
「うん!あっ、今度は男の子たちも!」
そうそう、男の子たちは織田作さんとお留守番で不満そうにしてたな。Qちゃんなんて「僕、よく女の子に間違われるから参加しても違和感ないと思うよ?」なんて言ってたっけ。
「早く桜咲かないかなー」
「場所取りはまかせて。夜叉がいる」
「あはは、確かに夜叉が刀持って場所取りしてたら誰も近づかないね」
現れた夜叉白雪が胸を張るポーズをする。最近はコミカルな動きが多くて、最初の頃の怖いイメージはまったくない。
鏡花ちゃんの心境を表しているみたいで嬉しく思う。
自然と笑みがこぼれて、再び桃の花を三人で眺めた。青空を背景に、少しだけ暖かく感じる風に花は揺れる。
***
「あーあ……私もなまえたちが誘ってくれたひな祭りパーティーに参加したかったなぁ」
「雛人形が見たいなら見せてやるが?」
「えっ、綾辻先生、雛人形までコレクションしてるんですが!?」
「歯があって不気味だと引き取った人形だ」
「ホラーじゃないですか!おめでたい日になんて話をするんですか!」
「おめでたいのは君の頭だな、辻村君。君から話を振っておいて何を言っている。それに、オカルトではない。本来、歯のある雛人形こそ伝統的な作り方だ。三人官女の人形はお歯黒だぞ」
「へぇ〜さすが人形愛好家、詳しい……って、誰の頭がおめでたいですか!」
「(……よくこれで特務課のエージェントが務まるものだな……)」